短編

□無自覚な罪
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一護達が3年に進級した時。
ルキアは、空座町に派遣されている死神とは別に、一護達の受験を妨げないようにするという任を受けて、現世に派遣されていた。
通常派遣されている死神よりも、副隊長であるルキアの方が当然戦闘力が強い。
強い虚が出た時に、一護達が加勢に行かなくて済むようにと考えられてルキアが送られたのだった。
つまり、空座町には今死神が二人いることになる。
だから、一護や石田は、少なくとも授業中には虚退治に参加しないようにとソウル・ソサエティからの要請があった。
大きな戦いに巻き込んで、さすがに卒業の要件を満たすための出席日数が危なくなった一護達への配慮だった。
今までの学校の先生や生徒の記憶は、一護と関わる数人を残して全て消され、ルキアはあらたに転校生としてこの学校に入ることになった。
そうしないと、ルキアも出席日数がどうの…ということになりそうだったから。
そして、貧血気味だから調子が悪くなったら授業を抜けるかもしれない、と事前に教師に伝えられていた。
そうして、虚が出ても授業を抜けやすい環境を作っておいた。
さすがに、二度目ともなると手慣れたものだった。



弱い虚でルキアが授業を抜け出すことは無かったが、強めの霊圧を感じるとルキアは体調不良を訴えて教室を出ていく。
そして、人目につかないところで死神化して、もともと派遣されている死神の加勢に向かっていた。
ルキアが転校生として入り込んで、1週間が経過した。
実は、前の戦いの後、ルキアと一護は心を通わせ、いわゆる恋人の関係を築いていた。
だから、ルキアが再び現世に派遣になったことを、二人とも密かに喜んでいたのだった。
ルキアの滞在先は、相変わらず一護の家で。
今回は、ルキアの安全も考えて、ソウル・ソサエティが直々に一護の父である一心にルキアの滞在を打診したのだった。
当然OKが出るに決まっていて。
二人は再び一緒に住んでいる。
でも、噂になると何かと面倒だからと、学校ではその関係を内緒にしようというのは、以前と同じで。
二人は、別々に学校に行き、学校内では必要最小限の接触にとどめていた。
結局二人はまた同じクラスになり、現世にある程度慣れたとはいえまだ不安のあるルキアは、密かにホッとしたのも確かだった。



新しい1年生も学校に慣れ、そろそろ賑やかになり始めていた矢先の昼休憩。
一護のクラスに、突然新入生の女の子がやってきた。
「黒崎先輩、いらっしゃいますか?」
「は…? 俺…?」
黒崎という名字は一人しかいないので、一護はいぶかしがりながらも立ち上がる。
「俺に何か用?」
はた目から見ると、眉間のしわがかなり怖い。
でも、その子は怯むどころか、嬉しそうに微笑んで言った。
「私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「悪い、わからねえ…。」
「私、馬芝中出身なんです。それで、昔先輩に不良に絡まれていた時に助けてもらったことがあって…。」
「ああ、そんなことがあったか…?」
「はい。あの時から、ずっと先輩に憧れていました。それで、私は空座第一高校を受験したんです。先輩と同じ学校に通いたくて。」
「はあ…。」



それはほぼ告白のようなものだが…。
鈍い一護は、どうやら気づいていないようだった。
それに気付いたのか、その子ははっきりと言い放った。
「私、先輩のことが好きです! 付き合ってもらえませんか?」
「はあっ…? 悪いけど、それは無理。」
「どうしてですか? 彼女さんでもいらっしゃるとか…?」
「ばっ…! そんなんじゃねえよ。彼女なんか、いるわけねえだろ!」
思わず、恥ずかしさからそんなことを言ってしまった一護。
その時ルキアがそっと教室から出て行ったことに、言われた言葉に焦っていた一護は気づかなかった…。



「それなら、まだ私が先輩のことを想っていてもいいですよね? 私、諦めませんから。」
そこで、彼女がいると言えばきっと事なきを得たに違いない。
一護自身、まずい発言をしてしまったとその子の言葉を聞いてやっと気付いた。
でも、クラスのみんなが聞いている前で、訂正なんてできはしなかった。
教室を飛び出したルキアは、屋上にいた。
(一護の莫迦者…。告白されている時に彼女がいないなんて言ってみろ。当然迫られるに決まっておろうが。)
もちろん、ルキアの言うことは正論だった。



そして、ルキアが思ったのは、当然それだけではない。
(いくらクラスのものに噂されるのが嫌だとは言え、あそこまで思い切り否定されると、胸が痛むものだな…。でも、私は一護の性格を知っている。だから、ここは私が抑えねば…。)
そう気持ちを切り替えて教室に戻ったルキアだったが、そこでさらに決定的な一言を聞いてしまった。
「じゃあ黒崎先輩! 放課後、迎えに来ます!」
つまり、それは一護とその子が一緒に帰るということを意味している。
(私と一応恋仲という関係性がありながら、一護はあの子と帰るのか…?)
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