黒崎夫婦の日常シリーズ

□覚悟はできた?
1ページ/4ページ

それは、二人が結婚する数年前の出来事。
まだ、一護が大学生の頃のことだった。
全世界を巻き込んだ戦いも終わり、ソウル・ソサエティの復興が急ピッチで進められていた。
隊長を失った十三番隊の全ての責務はルキアの肩にかかっていて。
最初は、隊長権限代行として職務に就いていたルキアも、少し落ち着いたこともあって正式に隊長に…という流れになっていた。



なかなか現世に来る余裕などないルキア。
それでも、一護はずっとルキアと連絡を取り続けていた。
時に、電話で。
時に、メールで。
そして、時に意味もなく遊びにさえやってきた。
遊びに…と言いながら、来たらルキアの仕事を手伝い、復興に力を貸し…。
そんな一護を、ルキアが頼もしく思っても不思議ではなかっただろう。



大きな戦いが終わった後、一護が一番懸念したのは、現世とソウル・ソサエティのつながりが一気になくなってしまうのではないかということだった。
荒れ果てたソウル・ソサエティ。
その復興のためにみんなが力を尽くすのは当然で…。
そうなると、ルキアだって当然そっちに駆り出されるだろうし、隊長になってしまったらもう特別な時を除いて現世任務に就く機会など無くなるだろうと思われたから。



ルキアとの接点をどうしても無くしたくなかった一護は、適当な理由をつけてはルキアとのかかわりを続けようとしていたのだった。
なんだかんだとよくわからない用件で連絡をして来る一護を、不思議に思いつつ実は嬉しくも思っていたルキア。
ルキアの方もまた、全てが片付いたら現世とのつながりなんて無くなってしまうのではないかと気にしていたのだから。
その時を迎えてみて初めて、ルキアはやっと、一護と逢えなくなるかもしれないということが自分にどれだけ衝撃を与えるのかに気づいた。



とはいえ、ずっとこの状態でいていいわけではないことも、もちろん悟っていた。
だから、一護に人間の想い人ができるまで…。
その間だけ、仲間としてでいいから側に居たいと願った。
自分に、存在意義を与えてくれた大切な人だから…。
少しでも長い時間を、共にしたかった。
本音を言えば、ずっと側にいたい…。



でも、それは死神である自分が願ってはいけないこと。
だから、絶対に悟られないようにとルキアは意識した。
だからこそ、ルキアは今まで通り一護に対しては傍若無人に振る舞っていたが…。
むしろ、それは逆に一護にだけは心を許していると取られても仕方のないことだった。
だって、ソウル・ソサエティでのルキアは、朽木家の死神らしく、隊長らしくと常に気を張っているのだから…。



一護は、大学を卒業する直前まで、忙しい実習の合間を縫ってでもルキアとの連絡を欠かさなかった。
ルキアも一護からの連絡を楽しみに待ち、またたまの休みには一護のアパートに突然出没して一護を驚かせもしたのだった。
「お前なあ、来るなら事前に連絡しろよ。」
(それならお前の好きなものとか用意して待っててやれるのに…!)
というのは、心の中だけで言っておくが…。
「だって、休めるとわかったのが昨日の夜中になってからだったのだ。」
ルキアは悪びれる様子もない。



でも、当たり前のように自分の側で時を過ごし、そしてくつろぐルキアを見て、一護は大学卒業直前についにルキアに自分の想いを告げたのだった。
それは、自分でも生活していけるという見通しが立ったから。
そして、忙しい間を縫って自分のところに来てくれるルキアに、ルキアもきっと自分のことを憎からず思っていると自信を持てたから。
既に管理職もいいところのルキアに対して、せめて自分も自立できるだけの立場になってから想いを告げようと、ずっと思ってきた。



「ルキア、俺、ずっとお前のことが好きだったんだ。付き合ってくれねえ?」
ルキアは、驚きの余り固まってしまった。
(な…、え…? 一護が、私のことを好き…だと…? まさか、そんなことが…。)
あれだけ連絡をされておきながらまったく気付きもしないルキアは、もう鈍いとしか言いようがないが…。
そんなことは一護自身、とうの昔に理解している。
ルキアは、自分に向けられる好意とか憧れの視線とか、そういうものに全く気付かないのだ。



まあ、お陰で誰もルキアにアプローチできなかったという、一護にとってはメリットもあった。
でも、その分ルキアに納得させるのは難しそうだ。
だから、一護はかなり強気な態度に出たのだった。
「俺も言ったんだ。お前も、好きだって言えよ。俺のこと。」
はっきりと言い当てられて、ルキアは焦りを覚えた。
(お見通し、か…。隠してきたつもりだったのに…。まあ、こやつに隠しごとをしようなど、最初から無理だったのか…。)



ルキアは、あきらめにも似た気持ちを抱えながら一護の目をまっすぐに見つめ返す。
ルキアの頬を、透明な滴が幾つも伝った。
「ルキア…?」
さすがに、一護も焦る。
(そんなに嫌だったのか…? もしかして、俺の勝手な思い込みか…? だったら、立ち直れそうにねえんだけど…。)
不安に思いながら、ルキアを見つめていると…。
ルキアが、ようやく口を開いた。



「ありがとう、一護。私のことを、そんな風に思ってくれて…。本当に、嬉しいのだ。でも…、その言葉…。嘘で、よかった。いや、嘘がよかった…。」
「なんでだよ!? 嬉しいのに嘘がいいって、どういうことだ?」
「貴様の人生を、私が縛るわけにはいかないのに…。貴様は、生きているのだ。でも、私は死者だ。その違いくらい、痛いほどわかっておる…。越えられない壁があることも、知っていた。それでも、私は少しでも一護の側にいたかったのだ。仲間としてでもいい、それでもいいからと…。いずれ、貴様が大切に思うおなごができた時に、笑って別れようと…。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ