黒崎夫婦の日常シリーズ

□◎怒っているのはなぜ?
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遊子の子どもは、ルキアが大好きだ。
夏梨は遊子よりも後に結婚したこともあって、まだ子どもがいない。
だから、ルキアにとっては遊子の子どもが初めて触れあった人間の小さな子どもだった。
赤ちゃんの時からその成長を見守ってきたこともあって、まるで我が子のように思える。
だから、すごくかわいがっていた。



もちろん、一護も同じようにかわいがっているのだが、男の子だからかルキアの方により懐いている。
とはいえ、もともとあまり霊力を持たない遊子と、普通の人間の間の子どもであるその子に、死神状態のルキアは見えない。
だから、遊子達に会う時のルキアは、義骸に入っている。
大っぴらに現世を歩けない立場のルキアは、ちょっと困ったな…と思っていたのだが。
そこは某悪徳商人の出番で。
ルキアの義骸の周りに霊子を張り巡らせることで、人間の目から義骸を見えなくするという機器を開発してくれた。
もちろん、タダとは行かないところが商魂たくましいとも言えそうだが…。
格安で価格が提示されたことは確かで。
実際かなり助かることもあって、ルキアはそれをありがたく購入したのだった。



それで外を歩くときは、一護とうっかり会話をしてしまわないように気を付ける必要があるが…。
人に見つからないように外を歩けて、必要なら人目に見えるようにもできるのだから、便利なものだった。
今日は、遊子が実家に遊びに来ているということで、一護とルキアも夕食を食べに来ないかと誘われていた。
一護は夜勤明けで眠ってから行けばよかったし、ルキアも仕事を調整すれば寄れそうだったので、邪魔することにした。



黒崎家の玄関を入るとすぐに、ルキアは義骸を可視化する。
それから中に向かって声をかけた。
さっそく遊子の子どもが飛び出して来て、ルキアに飛びついた。
ルキアはその子を抱き上げる。
嬉しそうにルキアの首にしがみついたその子は、ニコニコと笑いながら言った。
「ルキアちゃん! 僕が大きくなったら、ルキアちゃんをお嫁さんにしてあげるから待っててね。」
「おお、それは楽しみだ。」



よくある『大きくなったらお母さんと結婚するの!』的なノリの言葉。
もちろん、大きくなるころにはいろんなことを理解して言わなくなることを知っているからこそ、ルキアも笑って楽しみだと返せたのだが。
子どもの言葉だとわかっていても、一護としてはなんとなく面白くなかった。
とはいえ、大人だ。
それを顔に出すわけにはいかない。
聞かなかったフリをして、その場をやり過ごした一護だった。



リビングに入ると、遊子がキッチンで料理をしていた。
懐かしいとも言える光景。
「お兄ちゃん、ルキアちゃん! もうちょっと待ってね〜。」
「ああ、わかった。」
「すまないな、遊子。私も何か手伝おうか?」
「大丈夫、もう終わるところだから。ルキアちゃんはお仕事すごく忙しいんでしょ? たまにはゆっくりしてて。」
「ありがとう。では、甘えさせてもらう。」



遊子の気遣いを素直に受けたルキアがソファに座ると、ルキアに抱っこされたままだった遊子の子どもは、そのままルキアの膝に嬉しそうに座っている。
「絵本でも読むか?」
「うん!」
ルキアが誘い、病院で待合室に置くために集められている本がある場所まで出向いてその子でもわかるような本を一緒に選んできた。
ソファに戻ると、当然のようにその子はまたルキアの膝に座る。
その子を膝に入れたまま、ルキアは前に手を回して本を読み始めた。



とはいえ、小さいルキアのことだ。
本が見えにくそうで。
「なあ、お前が下りた方がルキアが見えやすいんじゃねえ?」
と思わず一護が提案するが、あっさり却下されてしまう。
「僕、ここがいいの!」
それを聞いたルキアは、笑って言う。
「大丈夫だ、一護。これくらいなら何とかなる。」
「そっか、ならいいんだけど。」
本当は、あまりよくない気がした。
もともと、一護は不規則な仕事だし、ルキアも忙しいことが多くまた遠征などもある。
二人きりでべったり、なんてことがあまりできないでいるところ、目の前でこんな場面が繰り広げられると、さすがに言いたいことがぐるぐると頭を回る一護だった。



(俺とでさえこんなにくっついていられることが少ねえのに、子どもってだけで人前でルキアにべったりしても許されるのって、なんか羨ましいような…。)
その光景を遊子は楽しげに見つめているし、医院の方から戻ってきた一心もほほえましいといった表情で眺めていた。
それを見ると、一護は自分が小さく思えてしまう。
(俺って大人げねえ…。)
思わずため息をつきたくなった。



そうこうしているうちに、ご飯がテーブルに並ぶ。
当然、遊子は自分の隣にその子を座らせようとしたが…。
「ルキアちゃんの隣がいい〜!」
と言い出したのを聞いて、ルキアが嬉しそうに「そうか、私の隣がいいのか!」とその子の食器を引き寄せてやっていた。
(またかよ…。)
一護は、心の中でこっそりつぶやいた。
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