拍手

□口実
1ページ/1ページ


「あっちーな…。」
「そうだな。」
今日は、登校日とやらで夏休みなのに学校に行かなければいけなかった。
帰り道、一護がうんざりしたように言った。
ちょうど昼過ぎで、太陽が照りつけているせいもあるのだが…。
ソウル・ソサエティよりも、現世の方がずいぶん暑い気がする。
いつだったか、授業で聞いたようにこのあすふぁると、とやらのせいであろうか…?
そう思いながら何気なく道路を見つめていると、ふいに一護が私の手を取った。



ななな、なんだ…!?
思わず一護を見上げるが、一護は何でもなさそうに言った。
「なんだ、冷たいわけじゃねえんだな。お前、氷雪系だから体を冷やす技とかあんのかと思ってさ。」
「そんなわけがなかろう。私だって暑いものは暑いのだ。」
「そっか。じゃあ、早く部屋に戻って冷房で涼むか。」
「ああ、それはいいな!」
一護に引っ張られつつ、私はクロサキ医院への道を歩いた。



そこで、ふと気付く。
なぜ私は、一護に手を握られたまま歩いているのだ!?
でも、一護が何も意識してない様子なのに、私一人で焦るのもおかしい。
何とも不思議な心持で歩いていた。
玄関に入ると、その手は離れた。
何となくほっとするような、ちょっとだけ寂しいような…。
って、寂しいとはなんだ!?
私と一護は、そういう関係ではないはずだ。
暑くて、頭がおかしくなったか…。
「ほら、部屋行くぞ。」
一人悶々とする私に、やはり一護は何事もなかったかのように声をかける。
ついていくと、ドアがガチャリと閉められ、一護はエアコンを入れた。



私は、いつものように一護のベッドに腰掛けて、涼しくなるのを待っていた。
あまり時間をおかず、涼しくなる。
「現世の道具は便利だなあ。」
すごいなあ、と思いつつエアコンを見ていると、一護が私の隣に座った。
いつもは勉強机の椅子に座ることが多いのに、珍しいこともあるものだ。
ああ、ここの方が涼しいからか…。
一人納得していると、急に引き寄せられて驚く。
「うわっ!?」
暑い暑いと言っていた一護が、私をギュッと抱きしめている!?



これでは余計に暑いではないか。
現実逃避のように余計なことを考えてみるが、この状況はどうしたものか…。
でも、不思議と振り払おうという気が起きないのだ。
黙ってそこにおさまっていると、一護がはあーっとため息を吐いた。
「逃げないってことは、いいんだな?」
「何のことだ…?」
「テメー、鈍すぎだろ。いいかげん気付け。俺が最近意識してお前に触れてたの、本気でわかんなかったのか!?」
「はて…?」



言われて考えてみれば、確かに…。
でも、それがまったく嫌だとも不自然だとも、私は思わなかったのだ。
そうか、そういうことか…。
「ふふ…、はは…! そうか…!」
顔に似合わず、かわいいことをしてくれる…。
「笑うな!」
「ぐえっ…!」
笑うと、力を入れて締め付けられた。
貴様は蛇か。
「降参、降参だ!」
本当は、降参などではないけれど…。
照れ屋で素直ではない男が、精一杯の気持ちを見せてくれたのだ。
だから、言葉を付け加えてやった。



「きついのは嫌だが、優しくなら歓迎してやらんこともないぞ?」
「生意気なヤツ。」
言いながらも、一護は力を緩めて優しく抱きしめてくれた。
まさか、この場所がこんなに落ちつくなんて…。
新しい発見だ。
暑い、なんて言っていたのはどこへやら…。
私は、その感覚を心行くまで味わった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ