長編

□【完結】私が私である意味は
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【1話】



私には、ずっと好きだった人がいた。
よくある、隣の家に住んでいる年上の男の子に恋を…というパターンだ。
オレンジ色の目立つ髪色は、地毛なのだとか。
しかも、眉間には皺が寄っていて、見ようによっては怖い。
そのせいで絡まれることが多くて、下手をすれば不良と言われても仕方がないくらい喧嘩っ早い男になってしまったが…。
私や姉には優しかった。



というより、本来すごく優しい人だった。
ただ、外見の影響でそんな風に見られないだけで。
ある意味損をしている、と思っていた。
とはいえ、その想いは届かないことは知っていた。
だって、その相手は私の姉のことを好きだったのだから…。
姉と私に対しては、明らかに態度が違う。
私のことは平気でからかうのに、姉には特に優しかったんだ。



実際に、その男…黒崎一護という姉の同級生は、姉に告白もしていた。
聞く気があったわけではなかったのに、うっかり聞いてしまった。
でも、姉は断っていたが…。
その後すぐ、私の一家は母の体調が思わしくなくて、空気のいい地方に引っ越すことになっていた。
それをわかっていたから、一護くんは姉に告白したのかもしれなかった。
結局、告げることすらなく終わった、私の恋。
告げなくても失恋が確定するという、何ともあっさりとした最後だった。



私の姉である緋真姉さんは、妹の私が言うのもなんだがおしとやかで優しく、誰からもモテる。
あまりにモテすぎてそれが普通になってしまい、本人にモテているという自覚が無くなるというおかしな逆転現象まで起こっているほどだ。
同性から敵視されるかというと、それもない。
いつも笑顔で、周りを和ませる空気を持っているから、同性からすら好かれていた。
誰からも愛される、自慢の姉。
でも、そのおかげでずっと比較され続け、正直なところ卑屈になってしまった私がいるのも確かだ。



私は、姉のように器用ではないしかわいくもない。
すぐに木に登ったり高いところに上がったりするようなお転婆だし、気も利かない。
口も悪い。
まるで中身は男のようなのだ。
顔はそっくりだとよく言われるのだが、中身は正反対だともよく言われてしまう。
その通り過ぎて否定はできない。



いつだったか、うっかりそれを一護くんに漏らしてしまったことがあった。
そうしたら、一護くんが言ってくれたんだ…。
「お前は、お前だろ。緋真と比較してどうこう思う必要なんてねえじゃねえか。」
それ以来、私は一護くんに心惹かれるようになったことをはっきり覚えている。
私を、ちゃんと私として認めてくれる。
そう、思っていたのだ。
長い間…。
でも、それは違っていたのだと、あとから知ることになる。



その後姉は、なんと誰もが羨ましがるような大会社の社長に見初められ、幸せな結婚をした。
姉には、そういう華やかな人生が似合う。
私は凄く嬉しかったし、自慢にも思った。
その後、短大に通い始めた私は、家を出てアパート暮らしを始めた。
母の静養のためにと人里離れた場所に家はあるから、短大には家から通える距離ではなかった。
短大は、以前私が住んでいた街…、つまり一護くんが今も住んでいるかもしれない街にある。
まあ、出会うことなどもうないだろうが…。



短大の入学式を済ませ、アパートの片付けもある程度終わった後。
私は、少しでも家計を助けるためにとバイトを始めた。
母の体調はいまだに思わしくなく、どうしてもお金が必要だから。
短大近くのカフェで働く。
おしゃれなところで、かなり気に入っていたから、採用が決まった時は嬉しかった。
そこで働き始め、1か月。
短大の生活にも、アパート暮らしにも、バイトにも少しずつ慣れ始めていた頃。
私は、バイト先で思いがけない人物に声を掛けられた。



「緋真!?」
姉の名を呼ぶ男の声に驚いて振り返ってみると、オレンジ頭…。
あれは、一護くんか!?
しばらく会わないうちに、またカッコよくなっていた。
それにしても、私を見て姉の名を呼ぶなどと…。
ああ、この男はまだ姉のことを忘れられないのだな…。
そんな風に思わされた。



あの頃は、私も姉にならって『一護くん』と呼んでいたのだが…。
そんな親しげな真似はもうできない。
だから、私はそちらに近づくと、一線を引くように言葉を選んで答えた。
「お久しぶりです、一護さん。姉ではなくて申し訳ないのですが、私は妹のルキアの方です。」
「え…、なんだ、ルキアか…。」
一護さんはがっかりしたように言った。
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