長編

□◎【完結】永遠(とわ)の絆
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【1話】





『ただ、一度だけ』





それが、全ての戦いが終わった後、現世に帰ることを決めた一護と私が交わした約束だった。
互いに、大切に思っていた。
できれば、共に生きたい。
そう願ったことも確かだった。
でも、私では一護が現世に生きた証を残すことができない。
一護の血を継ぐ子どもを産むことは、叶わないのだ。
万が一、叶うとしても…。
生と死が混ざり合って生まれる子どもなど、いていいはずがない。
それは、その子まで不幸にしてしまうことかもしれないから。
だから、離れる決心をした。



一護も、言った。
現世に戻りたくない気持ちも、半分あると。
それは、私がいないからだと…。
だけど、一護は私に命を護られたから現世で生き抜いて見せると言った。
護られた、というのは、本来私が言うべき言葉だったのだがな。
ソウル・ソサエティに連行される時。
一護に酷い言葉を投げつけて、せめて生き永らえるようにとしか願えなかった、弱い私。
そんな私を、一護は自分の命を掛けて救い出してくれたのだ。
そして、私の周りには私のことを想ってくれる人が確かにいることを、教えられた瞬間でもあった。



私達の心のよりどころとなったのは、いつか一護が私が記憶を刈られた時に言ってくれた言葉だった。
『なあ…、死が本当に終わりじゃねえんなら、俺たちだって、あの出会いが最初じゃなくて…、もっとずっと前から、つながってたのかもしれねえな。わっかんねえけど…、一度つながった絆は、消えねえんじゃねえか? それなら、もしすべて忘れちまっても、きっとまた、どこかでつながれる…お前と、あいつらだってな。』
今は、別々の生活を選んでも、きっとまたどこかでつながれる。
だから、私達は一度だけと決めて、初めて体を重ねた。
最初で、最後。
場所は、簡素な隊舎の私の私室のベッドの上だった。
それでも、それはとても素敵な時間で。
私達は、互いを想う気持ちを、思う存分ぶつけ合った。



何より、その前に私達は霊圧を分け合っているのだ。
同じ霊圧を持つ者は、絶対にいない。
自分が自分であることを証明するもののひとつ、それが霊圧だ。
それを、混ぜ合わせた。
魂のやり取りをした。
それはきっと、何よりも強い絆。
私達の、永遠の絆…。
それを確信した私達は、あるべき場所に戻ろうと決めた。
別れは、笑顔で。
そう決めていた私は、一護を笑って見送ることができたと思う。
一護も、晴れやかに笑っていた。
これで、いいのだ。



もちろん、一護を男として想う気持ちは、心の奥底のどこかにはあるのだけれど。
あの瞬間から、私と一護の関係性は今までとは違うものになった。
男女とか、恋仲とか。
そういう枠を飛び出して、さらに高い次元でつながったような気がした。
たとえ、互いに伴侶ができたとしても。
私達は、きっと魂の奥底でつながり合っていられる。
そんな気持ち。
恋仲になれる相手は、多くの者が見つけられるかもしれない。
でも、魂を分け合うなんてことができる相手など、そうそう居はしないだろう。
それができたのが、私達なのだから。
だから、一護に伴侶ができようができまいが。
それが私に陰を落とすことは、もうない。



むしろ、大切にしてもらえばいい。
現世で生きる一護は、人間なのだから。
人として、精一杯幸せな生を送って欲しいから。
私は、死神。
一護達が住む美しい世界を、護るべき存在で。
護ることが、許される存在。
それが、どれだけ誇りに思えることか…。
そんなことがあったから、私はその後しばらくの間現世に行くこともせず、復興に熱心に取り組んだ。
こちらが不安定だということは、現世も不安定なままだということだから。
早く、何とかしたかった。
そんな折、私は恋次に墓参りに誘われて。
結婚を申し込まれたのだった。



最初は、断った。
どんな形であれ、私が一護を忘れられないのは確かだから。
一護が伴侶を得ることと、私がそうであることは違う。
一護を想ったまま恋次と結婚するなど、それは恋次に失礼だと思ったから。
それなのに、恋次は言った。
『俺は、アイツのことを想うお前の気持ちごと、お前を引き受けてやるって言ってるんだよ。なんせ、アイツは俺にとっても恩人のようなものだからな。』
と…。
そして、あ奴の人生がやっと元に戻った気がすると言う私に、こうも言ってくれた。
『だったら、お前もこっちでお前らしく生きろよ。その方が、一護も安心するだろ。アイツ、最後までお前のこと、ずっと気にしてたから…。』
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