MAGI
□第3夜
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暖かい日差しが降り注ぐ午後。
自室の前の回廊から庭を眺めていると、巨大な赤い毛玉が移動してくるのが見えた。
その巨大な赤い毛玉の周りにたくさんの鳩が集まっている。
あぁ……紅明さんか。
大体……というか確実に鳩に餌をあげる人物は紅明さんしかおらず、あの赤い毛玉のように膨れ上がった髪を見ると、今日も軍議で忙しかったんだろうな、寝えないんだろうな、食事もしていないんだろうなと心配になる。
そうだ!
私は自室に戻って色々と準備をし、紅明さんの元に向かった。
「紅明さん」
「あっ、花殿。こんにちは。」
「こんにちは。今お休みですか?」
「えぇ、今日も軍議が長引いたもので……」
目の下のクマがそれを物語っている。
「なら、お団子があるのですがいかがですか?その様子だと何も召し上がっていないのでしょう?」
「………いいのですか?」
紅明さんの目がキラキラしている。
「もちろんです。女官から貰ったものなのですが量が少し多くて、どうしようかと悩んでいたところでしたから。嫌いでなければどうぞ。」
「では、遠慮なくいただきます。」
そういうと紅明さんは私の手のひらからお団子を取り、あっという間に食べ終えた。
「とても美味しかったですよ。これで、当分の間は持ちます。」
ツッコミたい事があったが、これから私にはやることがあるのだ。
「さっ、紅明さん。少しの間後ろを向いていてもらえますか?」
私は、紅明さんが食べ終わるのを見計らってそう言った。紅明さんは訳が分からないという表情をしながらも言う通りに後ろを向いた。私は袖から、朝いつも紅炎に使っている櫛を取り出し、毛玉になっている紅明さんの髪をといた。
「花殿?! 」
紅明さんはいきなりのことに驚いたみたいだったが、あまりの毛の絡まりようにそんなの気にする暇もなかった。
「軍議も大事ですが、少しは自分のことも気にかけて下さいね。食事もしっかり摂るのですよ。」
「お気遣いありがとうございます。………努力します。」
ふふっ、紅明さんらしい返事。私は心の中で笑ったのだった。
(あのお団子、私まだ食べてない………なんてあんなゲッソリした顔を見たら今更言えないけど、食べたかったなぁ。)
(花殿は、本当にできた人だ。兄王様が羨ましい。)