薄桜鬼[長編・土方歳三]

□第一章
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世界は、私達が思っている以上に広くて、美しくて・・・



そして−−






−−酷く、残酷だ




















いつもの通学路を、いつものように独りで歩く少女



後ろ髪が短く、横髪に向かうにつれて長くなっているショートヘア



緋色のように思えるその赤毛と、澄んだ空のような青い瞳が特徴的だ



そんな彼女を、周りは避ける



幼い頃からある、いくつもの能力が原因だった



声無きモノの声が聞こえる



傷の治りが速い



そして−−周知されてはいない上、本人もまだ知らない・・・もうひとつの能力がある



先にあげた2つの能力が原因で、彼女は嫌われている



いや、正確には−−“気味が悪い”と避けられている



そして、家族も崩壊した



父親は娘の能力を恐れ、もう随分と前に家を出た



兄は彼女の能力を知りながらも、まだ小学生だった妹を守って事故に遭い、他界した



女手ひとつで育ててくれていた母親は、耐えられなくなったのか、逃げ出すようにして自ら命を絶った



唯一彼女を恐れなかった祖父も、中学に上がる前に他界した



祖母は彼女が生まれて数ヶ月後に、癌で亡くなっている



家族はみんな、彼女から離れていった



家でも学校でも、彼女は常に独りだ



友達もいなければ、近所の人達と上手くやれているわけでもない



彼女を引き取り、育ててくれていた夫婦でさえも・・・今はもうほぼ無干渉だ



まだ学生だからか、生活費は口座に振り込まれてくる



だが後見人であるはずの夫婦は、嫌々ながらも彼女を引き取ったのだ



それをわかっていたからこそ、彼女は高校に上がってすぐ家を出て、独り暮らしを始めた



彼女が避けられている理由は、もうひとつある



それは髪と瞳の色



祖父母も両親も兄も髪は黒なのに、彼女だけが赤毛−−



瞳の色は、祖父と兄が同じ色だ



なぜなのかは、自分自身にもわからない



なぜ自分だけがこうなのか、わからない



なぜ−−



なぜ−−



なぜ−−?



その答えは−−わからない・・・



少女が通う高校の、屋上−−



そこに佇む少女が思い出すのは、幼い頃のあの日の記憶−−



全開にされたベランダの窓・・・



そこから入ってきた、少し冷たい春の風・・・



風に煽られ、何度もなびく白いカーテン・・・






『−−おかあ、さん・・・?』






消えてしまった、目の前に立っていたはずの母親・・・



残された少女の首には、少し赤くなった手の痕がある



子供の手の痕ではなく、大人の手の痕が・・・



「・・・・・・お母さん。私も、お母さんみたいに飛べるかな・・・」



無表情で、光の宿っていない瞳で−−少女は呟いた



揃えて置かれた上履き



柵の向こう側にいる少女



風で制服のスカートや、少女の赤毛がなびく



だが彼女は無表情のまま、遥か遠くを見つめるようにしている



さようなら



私の−−モノクロとなった世界・・・



遺言もなく、少女は飛んだ



いや、人目に着く場所から飛んだのだ



この行動事態が、ある意味では遺言のようなものなのかもしれない



少女は飛んだ−−母親と同じように



結果も勿論、母親と同じだ



彼女の人生は、これでゲームオーバー






























と、誰もが思うだろう



だがこれは、始まりのためのプロローグに過ぎない



エンディングではなく、オープニング



彼女は異世界−−別の世界で、コンティニューする



過去の時代で−−



彼女は、彼女の“光”を−−“生きる意味”を見つける






彼女の−−少女の名前は、両儀千世



それぞれの運命が交差し、変わっていく−−
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