薄桜鬼[長編・土方歳三]

□第二章
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千世「・・・・・・ん・・・?騒がしい・・・なに・・・?」



とある朝、目覚めると遠くで騒ぐ声が聞こえた



着替えて部屋の外に出ると、何やら嬉しそうに話をしている彼らを見た



千世「・・・?」



井吹「あれ、千世?今起きたのかよ・・・」



千世「ん・・・なんの騒ぎ?」



井吹「あぁ、あれか?なんか、会津藩のお偉いさんと会えるんだってさ。で、その人の前で試合するんだと」



千世「ふぅん・・・」



原田「よ、千世」



千世「あ、どうも。今、彼から聞きました。良かったですね」



原田「おう!そうだ、お前も来るか?」



千世「は?」



原田「ずぅっと籠りっぱなしなのもつまんねぇだろ?たまには外に出て、息抜きしねぇとな。近藤さんと土方さんには、俺から話しとくぜ」



千世「別にいいです。私なんかが行っても、何かできるわけでもないですし」



原田「そんな事ねぇよ。女が見てる前だと、男ってのは良いトコ見せようと張り切るもんなんだよ」



千世「はぁ・・・でももう、皆さん張り切ってるご様子ですけど」



原田「まあな。ようやく巡ってきた、晴れ舞台だからな」



千世「なら私、余計にいりませんよね」



原田「あのなぁ・・・」



千世「?」



近藤「千世君!ここにいたのか」



千世「私に何か・・・?」



近藤「実はな」



千世「あ、会津藩の事なら今伺いました。おめでとうございます」



近藤「おぉ、そうだったのか!ありがとう!そこでだ、どうだろう?千世君も一緒に」



千世「・・・は?」



近藤「千世君も、我々と共に暮らす仲間なのだからな。一緒にどうだろうと思ってな。遠慮はいらんぞ」



千世「・・・・・・私、やっぱり行きません」



近藤「え?」



千世「勘違いされているようなので言いますが、私は仲間ではありません。あなた方にとって私は、ただのお荷物のはずです。いつでも切り捨ててください。使えると思われたのなら、使って頂いて構いません。ですが、邪魔になりたくはありません」



近藤「ち、千世君?千世君!」



立ち去る千世の背中に手を伸ばすも、近藤の声に振り返る事なく遠くなって行く



原田と井吹は、彼女の背中を並んで見送った



やはり関わらないつもりなのだと、なんとなくわかってしまったからだ



当日−−結局、千世は行かなかった



残った千世は何もしないのもな、という事で掃除をする許可をもらっていた



邸内の掃除をしていると、思う事がひとつ



千世「汚ったな・・・」



さすが男所帯と言うべきか、細かい所の汚れが目立つ



千世「ハァ・・・こんな掃除のし甲斐がある所、そうそう無いって・・・」



呆れながらも掃除を続けていると、鴉の鳴き声が聞こえ始めてきた



ふと顔を上げると陽が傾き、辺りが夕陽で赤く染まっている事に気付く



千世「夕陽・・・」



『・・・夕陽の色だな』



千世「・・・・・・」



毛先を摘み上げ、自分の髪を見つめる



緋色の赤毛が、夕陽の色に見える・・・そんな事を言われたのは、あれが初めてだった



千世「・・・・・・夕陽、か・・・」



平助「おーい!」



千世「?」



大きな声が聞こえて、顔を向ける



嬉しそうな笑顔を見せて、大きく手を振る平助がいた



近藤と芹沢を先頭に土方達、他の隊士の姿も見える



みんな嬉しそうなのが、表情を見てわかった



平助「たっだいまー!千世!」



千世「おかえりなさい。上手くいったみたいだね」



平助「おう!って、すげぇ!なんか綺麗じゃん!」



千世「掃除したんだから当たり前でしょ?」



平助「掃除って・・・千世がやってくれたのか!?ありがとうな!」



千世「・・・・・・別に・・・汚かったから掃除しただけ・・・お礼なんて言われる筋合い無いし、その・・・要らないっていうか、あの・・・」



平助「・・・千世ってさ、素直じゃねぇのな」



原田「嬉しい癖にな」



その日の夜、広間は大変盛り上がった



近藤「君達のおかげで、会津中将様より、大変有り難いお言葉を頂戴する事ができた。今日は無礼講だ!好きなだけ飲んでくれ!」



千世〈男って、こういうの好きだよね。あ、今の私も男扱いか・・・男装してるし〉



永倉「おーい、千世ちゃん!飲んでるかぁ?」



千世「飲んでません、飲めませんし。第一、私が動かなくなったら誰が処理するんですか。料理とか、お酒とか」



即答する千世が呆れた顔をしているのは、永倉の顔が赤いから



酒を飲んで酔っているのだ



彼女が何かするとも思えない



という考えもあってか、勝手場に立って料理や酒類の用意をしていたのは千世だった



千世「ハァ・・・」



井吹「お前も大変だな・・・手伝うか?」



千世「いい、たまにはゆっくりすれば?あの人もいないんだし」



井吹「お、おう・・・」



そう言って立ち上がり、背を向ける千世を目で追う井吹



井吹「・・・あいつ、意外と優しいんだな」



周りには一切無干渉、と言いたそうにしていた千世



言い方は素っ気なく聞こえるが、井吹を気遣っているように思う



井吹〈もしかしてあいつ、本当は・・・〉
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