薄桜鬼[長編・土方歳三]

□第一章
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千世「・・・・・・ん・・・」



ふと、目が覚めた



いや、正確には−−



??「龍之介、お前案外優しいとこあったんだな」



??「そっ、そんなんじゃねぇよ!お、落ちてたもん拾っただけだ!」



??「いや落ちてたとは言わねぇだろ?人なんだからさぁ」



??「平助の言う通りだな!」



このように、騒がしい声が聞こえてきたのが原因とも言える



千世「・・・・・・生きてる・・・?」



呟いた言葉は、空気に溶けて消えた



ガラッ



??「お、なんだよ。目ぇ覚めてんじゃん」



長い茶髪を結い上げた、同い年くらいの少年が入ってきた



その後ろから、赤みがかった茶髪の男と、短髪の男が顔を覗かせる



??「お、そりゃあよかった!」



??「お前さん、大丈夫か?」



千世「・・・・・・」



彼らの格好は、明らかに昔の物だった



千世「っ・・・つっ・・・」



??「お、おい。無理すんなって」



辛そうに体を起こした千世に、少年が言う



千世「こ、ここは・・・」



??「浪士組の宿舎・・・つっても、わかんないよな?都の南にある、壬生村って所だよ」



千世「み、ぶ・・・?どこ・・・?」



??「どこってお前、都って言ったら京以外にどこがあるってんだよ?」



赤みがかった茶髪の男の発言に、千世は耳を疑った



千世「京?京都のこと?うそ、だって・・・さっきまで・・・東京に・・・」



??「お、おい?大丈夫か?」



動揺する千世に、少年が心配そうに訪ねてくる



千世「・・・・・・」



平助「と、とりあえずさ。一回落ち着けよ、な?お前、名前は?オレは藤堂平助」



原田「俺は、原田左之助だ」



永倉「俺は永倉新八だ。よろしくな」



原田「んで・・・・・・おい、龍之介!こっち来いって!」



??「いいよ、俺は!」



原田「いいから、来いって言ってんだろ!」



??「うわっ!」



原田「こいつは井吹だ。井吹龍之介。こいつが倒れてるお前を拾ってきたんだ」



井吹「一言余計だって!」



千世「・・・・・・千世。両儀千世」



平助「よろしくな。見たとこ同い年ぐらいだし、オレのことは平助って呼んでくれよ。オレも千世って呼ぶからさ」



千世「・・・・・・それで、お願いします。自分の苗字、嫌いだから」



原田「そうなのか?じゃあ、俺達も千世って呼ぶぜ?」



千世「【コクッ】」



顔を俯かせ、千世が頷く



井吹「ところであんた、なんでそんな変な格好してんだよ?」



千世「ただの制服・・・」



井吹「せーふく?」



千世「そっちこそ、どうして着物なの?」



永倉「どうしてって、普通は着物だろ?」



千世「?」



原田「まあそんなことより、なんで倒れてたのか教えてくれよ?行き倒れか?」



千世「・・・・・・知らない」



原田「?」



千世「私は・・・学校の屋上にいたはずだった。なのに・・・生きてる。生きて、ここにいる。飛んだはずなのに・・・」



永倉「飛んだ?」



原田「・・・・・・」



千世「・・・・・・」



平助「とりあえず、土方さん達に報告してくるよ」



原田「ああ」



千世「・・・・・・」



黙ったまま、また俯いてしまった千世



その千世を、原田左之助は見下ろす



“生きてる”−−そう言った彼女の言葉が、少し気になっていた



まるで、“死ぬはずだったのに”と言われているようで・・・



まだ10代であるはずの少女が、なぜそんな発言をしたのか



それが、少し気になっていた




















広間



千世「・・・・・・」



近藤「俺は近藤勇。君の名は?」



千世「両儀千世・・・」



近藤「そうか、良い名だな。あぁ、そうだ。こっちはトシ−−土方歳三だ」



土方「近藤さん!わざわざ自己紹介なんざ−−」



近藤「彼女も名乗ったのだし。構わんだろう?」



土方「・・・・・・ハァ・・・」



近藤「こっちは・・・」



山南「山南敬助と言います」



近藤「永倉君達のことは、もう知っているかな?」



千世「【コクッ】」



近藤「そこにいるのは、沖田総司」



沖田「よろしく、千世ちゃん」



近藤「その隣が・・・」



斎藤「斎藤一だ」



土方「で、なんでお前は倒れてた?」



千世「・・・・・・わからない」



土方「は?」



千世「学校の屋上にいたはずだった。そこから飛んだのに、生きてここにいる。だから、私にもわからない」



原田「さっきもそう言ってただろ?がっこうってのはなんだ?飛んだってのはどういう意味だ?」



千世「学校は、勉強する所。屋上は、学校で一番高い所。そこから飛んだ」



平助「高い所から飛んだって・・・・・・おいおい!普通それ、死ぬんじゃねぇのか!?」



千世「そうなりたくて飛んだんだけど。逆に聞きたいのはこっち。どうして−−私は生きて、ここにいるのか」



彼女の発言に、広間は沈黙に包まれた
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