ただそこに漂いたかった
□ぬるま湯/疑わしきは
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分かってはいたが、見事風邪をひいたため大切な日曜日が潰れてしまった。
少しの熱なら町探検へと繰り出せたのだが、39度となるとそうはいかない。
大人しく家を調べた。
そして今日も今日とて学校である。
「全ての対称式は基本対称式x+yとxy……」
既に知っている、ということは確かに一種の快感を生ませるがそれは最初だけ。
ゲームでも小説でも、結末が分からない方が面白いというもの。分からないからこそ知りたいと思い、興味を惹かれるのだから。
つまり退屈なのだ。
指摘されることはないだろうが欠伸を噛み殺し、外を眺めるのも飽きた。景色は何も変わらない。どこかのクラスが外で体育でもやってくれれば暇も潰れるのだが。私のノートも既に落書きで埋まっていた。
「…結城!」
『……………はい、?』
呼ばれたことに驚きながらもそちらを向く。クラスメイトの視線が一斉に反れた。
一体なんだ。と思いつつも私を呼んだであろう数学教師を見る。少しの期待も込めて。
「これを前に出て解け。ろくに板書もとらねーならこれくらい簡単だろ?」
どうやら私が暇しているのに気づいたらしい。そして咎めたいらしい。その得意気な笑みには「はっ、解けるわけねーよな。話聞いてないんだから」という本心が丸見えである。
前に出ろ、と言われたなら仕方ない。席を立ち黒板へと歩く。
黒板には積分の問題がかかれていた。
……ふむ。
少し考えてから白のチョークで=の先を書く。
その場で解いたから式が長くなったがいいか。私は解けとしか言われていないし。
解答を書き終えたので、くるりと振り返り自席へと戻る。座った時に見た教師の顔は驚きと羞恥、怒りという複雑な顔をしていた。うん、良い顔だ。
退屈だった心が晴れやかになるが、教師は何事も無かったかのように授業を続ける。
結局また、退屈に戻ってしまった。
_キーン コーン… とチャイム。それは放課後を知らせるもの。そして私の目を覚ますもの。
『………ん』
やっと放課後か、と身体を起こす。いつの間にか寝ていたらしい。まぁ、仕方ない。
私が起きたのを皮切りにそそくさと帰っていくクラスメイト。相変わらずである。
私も帰ろうと鞄を掴み、席を立つ。
にしても…このクラスメイトの挙動は謎だ。
普通私をいじめているのなら怯えないだろう。ならばいじめの主犯が居るのかと思ったら、そういう人物も見当たらない。そもそも、直接的に何かされてもいない。そんなんでいいのか、と私がいいたい位である。
というか、私をいじめて楽しいのだろうか。いじめ、というのは相手が嫌がるのが醍醐味だと思うのだが。その点私は真逆と言えるだろう。
『……………』
考えながら靴に履き替え、昇降口を出ると見知った人物を発見する。
毛利蘭だ。
彼女は門の外へ駆けていく。その顔は焦っているようだった。何かあったんだろうか。彼女は唯一私に親しく接してくれた人物+無害のない一般人。いや、名探偵もか。
廃れた心のクラスメイトとは違い、明るく笑顔が素敵な人物。…というのが私の印象。鞄の時に会っただけだから実際は知らないが、優しい人物に見える。
そんな彼女が切羽詰まった顔で走っていた。考えられることは色々ある。つまり、なんだ。興味が湧いた。
どうせこの後予定はない。
私は意気揚々と彼女の足取りを追おうと門を出る。
腰が震えた。
仕方ないので小走りを歩きに変更し、携帯を確認する。
"仕事だ"と一言。
……仕方ない。私にこの後予定はないのだから。了解、と返信を送り180度身体を回転させた。