ただそこに漂いたかった

□女の子って難しい
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放課後。

いつもの如く放課のチャイムで目を覚ました私は、いつもの如くむくりと起き上がる。

「白先輩!」
『わっ!え…蘭、ちゃん』
「えへへ、こないだの仕返しです」

正面に蘭ちゃんが居た。驚いた。…どうしてここに?当の本人はニコニコと嬉しそうだった。

『どうしてここに?』
「先輩、今日の放課後ってお暇ですか?」
『うん?まぁ予定はないよ』
「駅前に新しい雑貨屋さんが出来たの知ってますか?」
『知らない、けど』
「私たちと行ってみませんか?」

笑顔の蘭ちゃんは無敵のようだ。こちらの戸惑いを意にもかえしていない。
というか、私"たち"?

横を見ると女の子。茶髪の短髪、前髪をあげていた。蘭ちゃんとはタイプの違う女の子。私が見ると、視線を反らした。それはどこかクラスメイトに類似していた。

「ら、蘭…ほんとに結城白と行くの…?」
「園子?なにか言った?」
「いっ!いえ!なんででも…!」

笑顔の蘭ちゃんは最強である。それを"園子"と呼ばれた女の子も分かっているらしい。

「さぁ、白先輩!一緒に行きましょう!」
『う、うん』
「…え、えぇ」

園子…ちゃんとは初めて会ったが、今心がシンクロした。私たちに拒否権はない。









「ここのお店です!」
「へぇ、悪くないじゃない」

アンティーク調の外観は確かに悪くない。
駅前にこじんまりと佇むその雑貨屋には、既に女子高生が数人見える。やはり女子はこういうお店が好きなんだろう。それも新しくオープンしたとあったら、ミーハーな女子にはうってつけ。

_カラン

蘭ちゃんが店の扉を開けると音が鳴る。扉の端に錆びた鈴のような物が付いていた。客が来たことを知らせるよくあるあれだ。

「わぁ!中もアンティークなものでいっぱい!」
「こんにちは」
「こ、こんにちは。もしかして、店長さんですか?」
「えぇ。何かご所望であればなんなりとお申し付け下さいね」
「はい!」

優しそうな若い女性。店長だと答えたその女性は私たちに一礼すると店の奥に入っていった。

「…色々あるのね」

園子ちゃんの声に私も釣られて見る。アクセサリーからストラップ、財布や鞄、帽子まである。それらは勿論、全てアンティーク調である。

「せっかくだし何か買おうよ!お揃いのストラップとか!」
「え!?あ、いやそれは…ちょっと…」

と、ちらりと私を見る園子ちゃん。
何となくその心の内は分かる。お揃い、という部分が嫌なんだろう。理由は私。

それもそうだ。園子ちゃんからしたら私なんて今日初めて会った人…まぁ、それは私もだが…ましてや私の方が先輩。そんな人とお揃いの物を買うなんて気まずいだろうから、お金の無駄である。……そこら辺、蘭ちゃんは分からないけれど。

『私も今お金ないからいいよ。ここの品、デザインはいいけどその分高めのようだから』
「で、でも…!」

焦ったような蘭ちゃん。…彼女は一体私の何なのだろう。いや、私は彼女の何なのだろう…と行った方が適切かもしれない。

彼女が私に親しげに接しているのから推測するに、知り合い、なのだろう。でなければ学校であんなにも孤立している私に笑顔を向けることはあり得ないし、何より放課後にこうやって雑貨屋に誘うこともない。

だが、知り合いだとしても蘭ちゃんは疑問だ。

蘭ちゃんから受けるのは羨望や尊敬…それも程度の越えたもの…ただの知り合いにそこまでの感情を見せるだろうか。
そう考えると、蘭ちゃんと私が特別な関係であったと考えるのが自然。……だがまぁ私には記憶がない。

だから、彼女と居ると戸惑う。

彼女は私のどこにそれだけの感情を覚えているんだろう。

_パリン

「え?」

何かの割れる音。そちらを見ればニット帽を被り、マスクをしている目付きの悪い男。男の手にはハンマーが握られており、そのハンマー付近には穴の空いたガラスのショーケース。回りには散乱するガラス。

「テメーらそこから動くんじゃねぇ!」

更にハンマーを一度ショーケースの上に置き、懐から銃を出してきた。そして我々に向ける。女性のつんざくような悲鳴。強盗…というやつか。

「ひっ…!」
「警察を呼ぶような真似してみろ!この女の頭が吹っ飛ぶぜ!!」

男は近くに居た女子高生の頭に銃口を押し付け、反対の手で割れたショーケースの中からアクセサリーを取り出しバッグに積めていく。……アクセサリーには宝石類が付いていた。あのショーケースの中は高価なものだったのだろう。

「…ら、蘭!ど、どうしよう!!」
「警察は呼べないし…」
「でもこのままみすみす強盗犯を逃がすなんて!」
「人質さえ居なきゃ…!」

小声でやり取りする二人。…おいおい、随分と肝が据わっておられる。

周りの女の子なんて顔を青くし、身体は震え、まともに話せる様子じゃない。店長も店の端で震えていた。しかしこの二人は会話し、蘭ちゃんに至っては銃を向けられた女子高生を助けようとしている。

「…こうなったら私が強盗犯の気を引き付けるしか」
「ちょ…!蘭!バカなこと考えないでよ!…大丈夫よ。ここは駅前だし直ぐに異変に気づいた誰か外の人が通報してくれるわ…!」
「でもそれまでに逃げられたら…!」
「おい!そこの女なに喋ってやがる!!」

_パン

銃声と悲鳴。銃弾は私たちの横の壁に当たった。殺す気はないらしい。……これで、あの銃が本物であるということが分かったな。…にしても。

『撃っちゃって良かったんですか?』
「…!白先輩…!?」
「あぁ?…おい、勝手に立ってんじゃ」
『今の銃声、確実に外に聞こえましたよ。今頃誰かが通報していると思いますが』

気づいていなかったのか、男ははっとした表情を浮かべる。なんとも間抜けな強盗である。仲間も居ない、この男一人の犯行。流石に警察を相手にするのは大変だろう。

「っち!」

窓の外に通報している人でも見えたのか、不味い、という表情の男。乱雑にアクセサリーを幾つか掴み、バッグを持って逃走を試みる。

『ん、』
「っうあ!?」
『逃がすわけないでしょう』

視線が外に反れた隙に男に近づき、走り出した男に足を出して盛大に転ばせる。そして背中に乗り、手から離れた銃を奪い、それを男の頭に当てる。

『逃げるような真似してみろ!この男の頭が吹っ飛ぶぜ!!…なんてね』

先程の台詞を真似て言えば、男は青い顔で息をのんだ。








程なくして警官が到着し、無事強盗犯は逮捕された。動機は金が欲しかったから、というもの。新しく出来たばかりなのと、若い店長からして、簡単に盗めると思ったらしい。客も若い女性ばかりだったのも理由の一つ。

事情聴衆で私の犯人取り押さえまでの行動を疑われたが、蘭ちゃんがフォローしてくれた。
昔私に助けられたことがあるから、元から喧嘩には強いんだと。…そうだったのか。それで蘭ちゃんと私は知り合いであり、蘭ちゃんからもああいった視線を向けられるのか。

「でもすごいね白お姉さん!銃が怖くなかったの?…本物って分かってたんでしょ?」

事情聴衆が終わったと同時に現れた江戸川コナン。なんでも、小学校から帰ってる途中でパトカーが数台こちらに走っていくのを見て不信に思ったらしい。まさか、蘭姉ちゃんたちが居るとは思わなかったけど…と彼は言った。

『私がやらなかったら蘭ちゃんがやりそうだったから』
「え?…そうなの、蘭姉ちゃん」
「そうよ蘭!いくら蘭とはいえ一人で危険過ぎたわよ!」
「!それは、その…一人じゃなくて」

そう言って蘭ちゃんは私を見る。え?私?

「私が少しでも犯人の気を反らせれば白先輩がどうにかしてくれると思ってたから…」

結局先輩一人でどうにかしちゃったけどね…と苦笑いする蘭ちゃん。……蘭ちゃんの話じゃ、私が蘭ちゃんを助けたのは彼女がまだ小学生の頃。それも、その一回だけ。
……やはり分からない。

彼女はどうして私を…

「やっぱり先輩は凄いですね…とってもかっこよかったです!!」

そんなにも希望で満ちた目で見るのだろう。


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