ただそこに漂いたかった

□人による
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強盗事件があってから2日。

仕事が終わった後の日課になってきた射的をしている最中、携帯が着信を告げる。

マスターを見るとその意を組んだように首を振り、部屋から出る。この部屋に盗聴機がないことは確認したらしい。

マスターが部屋から出たのを見て、私は画面を見る。……非通知。だとしたらシャンディガフの方に用がある確率が高い。
その気構えで通話を押す。

〈…あ、白お姉さん?〉
『……ぇ、その声はリトルかい?』
〈うん!良かったぁ、間違ってなかった!〉

予想とは違う高い声。しかも聞いたことがあると思ったらこないだ会ったばかりのコナンくんからだ。……はて、私はリトルに番号を教えただろうか?

『番号誰から聞いたの?』
〈蘭姉ちゃんだよ!〉
『あぁ、なるほど…』

確か、リトルは蘭ちゃんに預かられてるんだっけ。蘭ちゃんの知り合いの親戚の子だから。それなら教えて貰うことも可能だろう。

『それで何のご用かな』

出来れば手短に済ましてほしい。今、私の格好はシャンディガフ。つまり灰髪包帯の"危ない私"。
ここのバーは私のような危ない人含め、黒の組織のメンバーもよく利用するらしい。シャンディガフは喋らない。ジンとマスターは既に知っているから問題ないが、それ以外の人にこの状況を見られるわけにはいかない。

もし見られ、それがジンの耳に入ったら。………………想像したくもない。

〈あのね…白お姉さんに聞きたいことがあるんだ〉
『うん』
〈……白お姉さんってボクのこと疑ってるよね…?〉
『そりゃあまぁ』

リトルと会ったあの夜。リトルは名探偵の弟だと言った。なのに蘭ちゃんは知り合いの親戚の子だと言った。

知り合いが名探偵…工藤新一だとしても、親戚というのは可笑しい。それにあのときはつけてなかった眼鏡をつけていたし。そのせいで、あのときの少年だと直ぐに分からなかったし…そのせいで、危うく"コナンくん"と呼んでしまうところだった。

『でも、何となく予想はついてるよ』
〈…え?よ、予想って!?〉
『今、名探偵…工藤新一の行方が分かってないんでしょう?だから名探偵の居ないその間、蘭ちゃんの所に転がり込んでいる……もしくは保護されてる。て感じだと思ったのだけど』

両親が居ないことは何となく分かる。あの夜、名探偵の家が真っ暗だったのに加え、今現在リトルを蘭ちゃんが預かっているとを考えるとそうなる。
もしくは、共働きで忙しいか、旅行に行ってる可能性もあるけれど。

〈じゃ、じゃあ!あのとき一瞬オレのことを見たのは…〉
『蘭ちゃんが名探偵を一週間前から見ていないって言ってたから。一週間前といったら丁度あの夜。君はあの夜名探偵に内緒で抜け出した……つまり、あの家に名探偵は居た。だとしたらリトルは名探偵の居場所を知ってるんじゃないかと思って。………よくよく考えたら、家は真っ暗だったんだから君が抜け出した後に行方不明になったと言うことなんだろうけど』
〈…………〉
『リトル?』
〈……ううん、そっか!ありがとう白お姉さん!〉

この会話の中でリトルは何を得たのか分からないが、とにかく用件は満たせたらしい。

〈あ、でも蘭姉ちゃんにボクが新一兄ちゃんの弟ってこと言わないでね!〉
『というか、蘭ちゃんは知らないの?』
〈そもそもボク、本当に新一兄ちゃんの弟じゃないから!〉

その言葉にはてなが浮かぶ。じゃあ、義理、とでも言うのだろうか?

〈ボク"阿笠博士"って人の親戚なんだ!だから新一兄ちゃんって言うのは本当の兄弟って訳じゃなくて〉
『あー……つまり、蘭ちゃんを"蘭姉ちゃん"って呼ぶのと同じってことか』
〈そう!〉
『なら、どうしてあの夜は嘘をついたんだい?』
〈ええっと…それは…咄嗟に出ちゃって。ほら!知らない子供が自分の家じゃない家に入るのって可笑しいことでしょ?〉
『まぁ確かに』

なら、尚更"親戚の子"だと一言言えばいいだけだったのに。…子供はそういうものなのか。

『用件は済んだ?』
〈うん!ありがとう!〉
『じゃあ切るね』
〈うん!あ、ちょ〉

_ツー ツー ツー

『…切っちゃった』

何か言おうとしていたが流れで切ってしまった。仕方ないだろう、話をこれ以上長くしたくなかったのだから。

しかし、なるほど。リトルの疑問は晴れたな。私も気になっていたことだからよかった。

『……ふぅ』

携帯をポケットに戻す。

_ガチャ

と同時に扉が開く。マスターだった。

『……』
「どうぞ、続けてください」

銃を的に構える私にそう言う。…相変わらずこのマスターは…。毎度毎度私が撃っているのを見て楽しいのだろうか。それも、毎回撃つところは同じだと言うのに。

_パン

撃った銃弾は吸い込まれるように中点へ。

「……やはり素晴らしい」
『…はあ』
「私はこうやって貴女の側にいられることを光栄に思います…シャンディガフ様」

うっとりとし、高揚とした顔のマスター。…私は引く。

「これからも、どうかそのままで…」

前にジンに似たようなことを言われたが、言う人によってこうも違うとは。

ジンのは何ともなかったが、マスターのは正直気持ち悪かった。


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