ただそこに漂いたかった
□不運な幸運
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▽
『ふ……』
出そうになる欠伸を噛み殺し集中する。いかんいかん。
『………』
目的の奴はまだか。こうも柱にずっと隠れているのも疲れる。早く来ないかな…今日は夜、園子ちゃんとの約束がある。早く終わるに越したことはない。
_コツ コツ と足音。どうやら来たらしい。
「っおい!来たぞ!何処にいる!!」
出ていく前に隠れながら周囲を見る。……ちゃんと一人で来たな。それを確認してから私は柱から出た。
「!…お前だな。ほら、約束の金だ!!」
手に持っていたジュラルミンケースをこちらに見せてくる男。体格は良く、顔は悪い、写真の通り。
『【ケース こちらに】』
「…あ!?ちゃんと喋れ!」
『【うるさい 早く】』
「わ、わかった」
銃を構えれば大人しくケースを渡してくる。中身を確認しなければ。暗証番号は予め聞いている。
『………』
しかし、入れても開かない。…これは。
_パン と銃声。既に予想していたため、ジュラルミンケースを盾にして防ぐ。
そして素早く銃を出しこちらも発泡。
「!ぐっ!!」
『………』
綺麗に心臓を撃ち抜いた。
倒れた男に近づいて確認する。そして足で相手の身体を揺する。足をおもいっきり踏むが反応はない。
「…………」
死んだ。元々金を受け取ったら殺す任務だったので問題ない。
それから自殺に見せかけるよう細工する。自分の痕跡がないかも確認。
『…………』
万一、銃声が二発誰かに聞かれていたとして自殺ではないと思われたとしても、痕跡さえ残さなければ問題ない。
この男とは組織との関係であり、私個人ではない。私だと突き止められることはまずない。
_……
『!………』
思っていた矢先にパトカーの音。まずい、細工と確認に時間を掛けすぎた。
私は急いでその場を去った。
『…………はぁ、ヒヤッとした…』
無事にバーまでたどり着き一息つく。
「シャンディガフ様。随分お疲れですね」
『少し、ね』
マスターの笑みにほっとした感情が失せた。
『…シャワー借ります』
「ええどうぞ」
staff room と書かれた扉に入り、更にシャワー室という扉に入る。
そこで髪を黒く染め、カラコンも取り、私服に着替える。脱いだ黒いコート類はバックの中へ。銃も服に包んで入れる。
最後に鏡で確認。…結城白がそこには居た。念入りに確認し、シャワー室を出る。
_コン コン と入ってきた店内へと続く扉をノックすれば直ぐにノックが同じ数だけ帰ってくる。これは確認。
すぐそばにお客さんが居るようなら一回、居ないようなら二回。
居ない様なので扉を開ける。
「…ふふ、やはりそちらの姿も素敵ですね」
『それは…どうも』
シャワーを浴びてスッキリしたはずなのにまた入りたくなった。やはりこのマスターは好かない。多分合わないんだろう。
さっさとバーを出る。ちゃんと周りに人が居ないかを確認して。
『……ふぅ、大分かかったな』
午前中に来ると思っていた標的がまさかの遅刻だからな。まぁ、そもそも時間が決まっていた訳ではないので仕方ないが。
園子ちゃんとの約束は駅前のカラオケボックスの前に7時。この場合の駅前は米花町の前だろう。
直接行くには早すぎるし、一旦自宅に戻って荷物を置いてから向かうか。
そう思って自宅に戻り、荷物を置いて駅まで向かっていたのだが。
「結城!!今日こそはテメーぶっ殺してやるからなァ!」
「へへ、んな格好してデートかな?」
「は、なら彼氏も一緒にぶちのめしてやる!」
私 は 運 が な い の だ ろ う か
こないだのリトルの一件で十分不幸は被ったと思ったのだが、どうしてこうも、また…。
時間に余裕はある。しかしこの格好。…スカートはいいとして、ヒールは履かないべきだったか。ブーツにするべきだったか。
『……』
「おーおーどうしたぁ?ビビって声もでねぇか!?」
なんでまたコイツら?顔は分からないがこの制服は覚えている。私が初登校の日に昼休みに絡んできた奴等と同じだ。
『…あの、どうしてこうも私に絡むんですか?』
「っ!!ああ!そーだよなぁ!…テメーはふ抜けちまったからなぁ!」
『いや答えになってないんだけど』
こいつらとの会話は難しそうだ。なら、やはり武力行使。
前回とは違って私が戦えることは理解している。恐れることはない。
「おらぁ!!」
向かってきた拳を包み込むように掴み勢いを殺さず、流す。そして肘を本来曲がる方向の逆に殴る。…うわ、痛そう。痛がってる隙に頭に回し蹴りをして気絶させる。
次に向かってきた奴の攻撃もかわし、鳩尾に一発。他の奴等も同じように対処。
最後に残った一人も同じようにしようと拳を避ける。しかし、走ったのは痛み。見ると、殴ると見せかけてナイフを握っていた。まぁ、それでも関係ない。
ナイフを持った手首を骨をずらすように握ればナイフを落とす。そして例のごとく肘を逆に殴ってから頭を蹴る。
『…………ふぅ』
威勢の良かった高校男子たちは全員地に伏せ唸っている。
「っくそがぁ!!」
その中の一人が立ち上がり向かってくる。なんとも元気がいい、
い?
「………」
「っあ!誰だテメーは!!」
「なに、ただの通りすがりだ」
「…、!!」
私を襲ってきた高校男子の腹に重い一発が入れられる。叫び声も出ず、そのまま意識を飛ばした。
………うわ、今のは痛そうだ。あばら折れたんじゃないか、と思うくらいだった。
『えっと、ありがとうございます』
またもや誰かに助けられてしまったようだ。前回は名探偵だったが、彼は一体。通りすがりとか言ってたが。
「いや…もっと早くに入らなくて悪かった」
『?いえ、それは別に。そんなのずっとこの戦闘を見ていたら言えることですし』
「いや、見ていたんだ」
『……はい?』
「最初は助けに入ろうと思ったんだが…嬢ちゃんがあまりにも余裕そうだったんでな」
『なる、ほど』
え、見てたのか。この人。恥ずかし。
背は高く、ニット帽を被っている。顔つきは整っているが、目つきは鋭い。ジンみたいだ。
こんな人がずっと見ていたのか…。え、それはちょっと怖い。想像して、まるで殺し屋の様だと思った。
「…そんなに深くないな」
そう言って男性は私の右頬を左手の親指で撫でる。撫でた後の男性の指を見ると血がついていた。それから自分でも触る。血がついていた。
『痛いとは思ったけどまさか顔だったとは』
「…気づいてなかったのか」
『気にするよりもさっさと倒しちゃおうかと思って』
「……少し待ってろ」
少しだけ呆れたように見せた男性はそう言い、何処かへ去っていく。その顔はリトルのと似ていた。……となると、リトルが普段呆れているのは癖ではなく私のせいということになる。なんだと。
『……待ってろ、か』
園子ちゃんとの約束には確実に遅れる事が確定した。
_ブー とポケットが震える。これは着信。タイミングからして園子ちゃんかと思ったが番号を教えた覚えはないので違うと分かる。
なら、リトルか?
と思い画面を見て絶句した。