ただそこに漂いたかった

□暗闇
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『【君、大丈夫?】』
「……へ?」

その少年…青年?は私の持つ携帯の画面を見て困惑した顔になる。それから私の姿を確認し驚く。

「!!っうわ、と、!?」
『!』

折角海からあがってきたというのにまた落ちそうになっていたので、青年の腕を掴んで引き寄せる。

ふぅ…危ない危ない。

「っ!?」
『……』
「…あ、す、すみません」

よっぽど驚いたのか突き放されてしまった。けれど直ぐに謝られた。

『【大丈夫?】』
「えと……はい」
『【そう】』

青年がなぜ海から出てきたのかは解らないがとりあえず無事そうである。
なら、さっさと帰るとしよう。今はシャンディガフのためこの青年の印象に残ってしまう前に、立ち去りたい。

……いや、こんな夜中に包帯人間と会ったらそれこそ印象に残るか。

『…【後少しで警察が来ると思うからよかったら保護してもらうといい。そのまま帰ったら寒いだろうから】』
「っけ、警察……ですか」

青年の言葉に頷く。

最も、呼び寄せたのは私なのだが。

今回の標的はある会社の社長。突然社長の行方がわからなくなったとなれば、社員の誰かが通報しているだろう。

もちろん私の痕跡なんてものは残していない。が、社長の黒い過去は消えようがない。そこからこの場所へたどり着くのは時間の問題だった。

……結構経ってるからな。もうそろそろ警察が来てもおかしくない。

……あ……て、そうか。青年が保護された場合、私のことを喋るかもしれない。

そのことに気づいて、私は携帯のメモに文字を打ち込む。暗闇だと手帳の文字は読みづらいのだ。

『【私がここにいたことは秘密にしてくれると有難い】』
「わ、分かりました……けど」
『…?』
「……お姉さん。って、何者?」

何者…。自分の格好が怪しさ満点なのは承知している。それ故の質問だろう。

『……【通りすがり】』
「…絶対嘘だよね」

嘘である。けれど、これ以上青年とここでお喋りする暇はないのだ。…こんなことなら話しかけなければよかったな。大丈夫か、の有無を聞いたら立ち去る予定だったのに。

『【そう思うのならそれで構わない。私は忙しいから失礼する】』
「っあ!」
『………』

なんだ。立ち去ろうとしたら手を捕まれた。いや、なんだよ。こちとら早く帰りたいのだが。

「…名前は」
『……【どうして私が君に?】』
「…それも、そうですよね」

ああそうだとも。どうして名前を教えなければならない。

『………【失礼】』

その画面を見せ、私はその場を去った。

「……あれは、」

背後で青年がなにか呟いたみたいだがさして興味はない。それよりも今はジンへ報告しなければ。





「煙と…血の匂いだった」

その言葉は黒い闇に溶けていった。



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