ただそこに漂いたかった

□雪/包帯
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『……………さっっっむ』

街が雪で色づいた今日。寒いのも暑いのも得意ではないが、白というのは好きだった。だからこそこの寒い中、真っ白になった街を見ようと来たはいいが。寒い。

『…どうやら地球温暖化は進行していないようで』
「あー!!白お姉さん!」

びく、と。肩が跳ねる。いきなり大声が聞こえ、更に私の名前が呼ばれた。驚かない筈がない。

『……やぁ、君たち』

そこにはいつかの子供達が居た。ランドセルを背負っている彼ら。…時間からして下校中だろうか。

「久しぶりだね!白お姉さん!」
『そういえばそうだね』

用事もなければ会うことなんて無いからな。

「白さんはお出掛けですか?」
『いや、雪を見に』
「………白お姉さん学校は?」
『リトル!』

聞き覚えのある声がして見ればリトルだった。リトルはジト目でこちらを見ている。

『水族館ぶり』
「うん。…で、サボりなの?高校生はまだ学校だよね?」
『そんな堅いこというなよ』

別にサボりくらいいいじゃないか。連日の仕事で疲れてるんだ。加えて、"シェリー"って女性も捜さないといけない。

少し前。ジンに呼び出されバーに行ったら写真を渡された。そして「シェリーだ」と一言。私は首を傾げる。続いて「どんな方法を使ったかは知らねーが、牢から逃げやがった」と言われる。
私は写真に映る女性にも、名前にも覚がなかったため首を傾げたのだが、ジンは別の解釈でとったらしい。

『…行方は分からないんですか?』
「あいつの行きそうな場所は全部調べてる。が、一つも掴めねぇ」
『はぁ…』
「お前ならなにか分かるんじゃねぇか?」
『え?』
「何度か会ってるだろ。…個人的にもな」

そう、なのか。どうやらシェリーという女性は私と親しいらしい。いや、親しいと断定するのはあれだが…少なくとも嫌いな相手に個人的に会いにはいかないだろう。

「何かお前に洩らしたことはなかったか」
『…ない、かと。記憶にはないです』
「ま、そうだろうな。…あいつは賢い」

ジンの口角が上がる。…ジンもそのシェリーって人と親しかったんだろうか。殺す気は満々みたいだが、他の裏切り者に対する態度と違う。

『……それで、私は逃げたシェリーを捕まえればいいんですか?それとも、殺し?』

どちらにせよ、私にとって重要なのはそこだ。シェリーの記憶など私にはない。私が彼女と親しかったとして、そこに私の感情はない。

「………要らねぇ心配だったな」
『え?』
「いや、女同士。変な情でも湧かねぇかと思ってな。……お前に限ってそれはなかった様だが」
『……私は、ジンが殺せって言ったら殺しますし生かせって言ったら生かします……私はそういうものなんでしょう…?』
「ああ。…その言葉が聞けてよかったぜ。お前を殺さなくて済みそうだ」
『………気が早いです』

そんなことがあって、何かと仕事の合間にシェリーのことも調べていた。
と言っても、どこから調べればいいのかも分からないし……無闇にこの写真を見せるわけにもいかないからな。
いつものお使い程度の難易度じゃないんだろう。

「ええー!白お姉さん学校さぼってるのー!?」
「サボるのいけねぇんだぞ!!」
『ほら、君のせいで子供達があらぬ誤解を』
「誤解なら解いてみせろよ」
『うわ………可愛くない』

まぁ…。子供との純粋な付き合いは疲れた心を癒してくれるものである。子供は、やはり知識がない。それ故に、大人と対峙するほど気を張る必要がない。その隙をつかれないようには気を付けているけれど。

『君たちは学校帰り?』
「話しそらすんじゃねーよ!」
『家、随分遠いんだね』
「え………あ!!」

気づいていなかったらしい。…ふっふっふ、私を舐めるでない。小学校の位置など既に把握しているのだよ。

とっくに家を通りすぎたことに気づいた子供達が焦ったように声をあげる。

「白さんのせいだぞ!」
『誰のせいかは問題じゃないだろう?』
「……う」
「………まぁ、ここは大人しく帰ったらどうだ?」

呆れたようなリトルが言う。その顔を私にも向けているのは心外である。

「…ち、わかったよ…じゃあな!」
「また明日!白さんも!」
「バイバーイ!」
「おう!」
『ん』

片手を振って子供三人と別れる。
それからリトルを見る。………あれ、隣に知らない子供。

『………君は帰らないの?』
「灰原の家はもう少し先なんだよ」
『へぇ、灰原っていうの』

赤っぽい茶髪の女の子。去ってった三人と比べると随分と大人しそうに見える。こう、家のなかで本読んで過ごすタイプみたいな。

「……灰原哀。貴方のことは江戸川君から軽く聞いたわ」
『そう。なら知ってるだろうけど…私は結城白。哀ちゃん?それとも哀さん?』
「!………別にどっちでもいいわ」
『なら哀ちゃんかなぁ』

纏う雰囲気は哀さんっぽいが、呼びやすいのは哀ちゃんだ。

「……それで、白お姉さんはいつまで着いてくるの?」
『着いていってる気はないんだけど……………………ど』

そんなに冷たい目を向けなくてもいいじゃないか、と言おうとして詰まった。

歩道側に寄せて止めている黒い車。高級感溢れる外車。………見覚えがありすぎる。……マジか。

『確かに用事があるからそろそろ失礼するね』
「?そう?」

リトルの不思議そうな顔。
…今夜確かに仕事があるからジンが近くに居るのは知っていたが、普通に街中にいるとは。……今夜の仕事に私は呼ばれていない。しかしここで会ったら「丁度いい」と連れてかれそうだ。「暇なら仕事しろ」とか言われそうだ。…これ以上仕事が増えるのは御免である。今日くらいは雪を楽しみたい。

『それじゃあ、また。リトルに哀ちゃん』
「………」
『哀ちゃん?』
「!…え、ええ」

哀ちゃんも何故か驚いていたが私はそそくさとその場を去った。

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