ただそこに漂いたかった

□戦慄/呆れ
1ページ/2ページ



_ブー、ブー

『……………………………………………………………は、』

朝。アラームではなくバイブレーションで起こされた。はて、寝る前にマナーモードにしてしまったか?と思いながらぼやける目を擦って携帯の画面を見る。

画面にはメールの着信を告げるもの。それも蘭ちゃんからだった。なんだろう、と思いメールを開いて戦慄した。

『……………』

様様な考えが瞬時に巡る。そして最悪のケースが思い浮かんだ。

携帯を放り出し適当な服に着替えて家を飛び出す。

メールに添付された写真は、リトルが病院のベッドで寝ているものだった。

窓から見えた景色。それを頭の地図からピックアップして、一番近いものを探す。…角度から高さを計算し、合致するのは…米花総合病院。

そうと決まったら走り出す。自動ドアを抜けて看護師がなにやらざわついたが気にしている余裕はない。

あの景色が見える部屋番号は……ここだ。

『っ!!』

ガラッと扉を開けその顔を見る。リトルは上半身を起こしていた。私を見てとても驚いている。

……良かった。それほど危険な状態ではないらしい。一先ずほっと胸を撫で下ろす。

「!?白お姉さん!」
『リ、トルっはぁ!よか、ったぁ!ほ、ほんとっ!』
「!と、とりあえず落ち着こうよ」
『よかったぁあ!?い、!!』
「ちょっと!!止まれって言ってるでしょうが!!」
「早く、警察を!、」

身体に衝撃が走る。その勢いで床におでこをぶつけた。

私はナースによって取り押さえられていた。体格の良いナースさんに全体重をかけられ身動き一つとれない。え、え?混乱。まって、なにこれ。

「不審者よ!!早く警察に!!」
『!あ、いや!私はちが』
「っ!ナース長!!今繋がりました!!」
『り、リトル…!』

ゴメン。助けて。

そう言った私をリトルは相変わらずの目で見て、ため息をついた。












「……で、オメーは蘭から送られてきたメールの文章を読みもせず、写真を見ただけで焦って走ってきたと」
『は、はい…』
「………はぁぁあ」

重いため息を吐いたリトルになにも言えない。というか説教モードのリトルはもう子供とは思えないのだけど。たまに出るヤンキーモードだった。

「……心配してくれたのは嬉しいけど…手続きしないでいきなり乗り込んできたら病院がパニックになるだろーが」
『め、面目ない…』

そうは言っても相当焦ったのだから仕方ない。

この間のピスコの件。あの場にリトルと哀ちゃんも居合わせてしまった。……あのまま無事に帰っただろうと思っていたが、今日の写真。

……もしかしたらあのあとジンに見つかって口封じをされたんじゃないかと。
そもそも、ピスコにも銃を向けられていたし…あり得ない話ではない。

咄嗟にそんな最悪のケースが頭に浮かんでしまった。

『…でも、本当に無事で良かった』
「……そこまで白お姉さんが心配するとは思ってなかったよ」
『何を言う。だって君は、……………』

主人公だから。

と言おうとして口を抑える。あ、危な…。そんなこといったら頭おかしい人と思われる。最悪気持ち悪がられる。リトルの冷たい目線は構わないが、リトルからの軽蔑の目線は受けたくない。

「……………………………君は?」
『……と、友達…だから……?』

咄嗟に適当な言葉を紡げばリトルは不意を突かれたような顔になる。思ってもみなかった回答だったらしい。

「……っはは!そうだね!ボクは白お姉さんと友達だもんね!」
『う、うん』

ころっとキャラチェンジしたリトルはそう言って笑う。

『友達、だから。心配になると思うんだ、多分』
「多分って…白お姉さんは心配したからこんなに息を切らしてまでボクの所に来てくれたんでしょ?」
『いや、私友達居ないから分からないんだよね』
「……うわ」

可愛かった顔が一瞬でゴミをみるような目になる。ヤンキーモードは懲り懲りなんだけど。

『……で、そろそろ君がどうして病院のベッドですやすや寝ているのか聞きたいんだけど』

こんなときは話題を反らす。それが有効だった。

リトルはまだ私を訝しげに見ているが話してはくれるらしい。

「…蘭姉ちゃんのメールにはなんて?」
『"コナンくんが事故で怪我をしてしまったので、只今米花総合病院で入院中です。先輩も是非お見舞いに来て下さい。コナンくん絶対喜ぶと思うので!"………だそうです』
「なら、そのまんまだよ」

いや具体的な事が聞きたいのだが……まぁ、いいか。大事じゃないのなら。"事故"なら。

「………で、白お姉さん」
『なんだいリトル。まだ何か?』
「今何時かな?」
『多分10時とか……あ、ぴったり10時だ』
「…今日、平日だよね」
『うん』
「……学校」
『サボり』
「……………………あのねぇ」

段々とリトルの目が細められ、私をジト目で見る。

『リトルだってサボってるでしょ』
「オレは け が だ」
『そんなに変わらないよ』
「変わるだろ!」
『大声ださない』

私の指摘に渋々ながらリトルは口をつぐむ。……うんうん。やっぱりリトルは楽しいな。反応が楽しい。家に居るよりよっぽどいいや。

『という訳で今日一日はここにいるから』
「……………」
『そんなに嬉しそうな顔しなくても』
「………白お姉さんの目って腐ってるよね」
『わぁ、辛辣!』

でもそれでこそリトルだった。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ