ジーザス
□私は理解していた
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アラジンとは暫く手を繋いでいたが…耐えられなくなり自然と離れていた。
「大丈夫かい?」
「………」
「全然大丈夫そうじゃないね…」
砂漠。砂丘ではないとはいえ土壌はこれでもかというくらい乾いているし、地平線には陽炎が揺らめいている。
つまり暑い。
それはもう尋常ではなく暑い。
温室育ちの私に砂漠越えの経験などあるはずもない。…因みにアラジンも砂漠越えは初めてらしいが、日本とここでは太陽の質が違う。アラジンは砂漠は初めてでもこの太陽の元で生きてきたんだ(服装から察するに)。それに旅をしているそうだから基礎体力が違う。
スーツを脱ぎたいところだが強い日差しは害である。それくらいの知識はあった。ジャケットを日避け代わりに頭に被り、シャツはあくまで着たまま。………汗が凄い。へばりついて気持ち悪い。
「……水浴びしたい」
「水浴びかい!?ぜ、是非僕も一緒にいいかい!?」
「う、うん。勿論だけど」
アラジンは目をキラキラさせてこちらを見る。…水浴びしたいだけだよな。私を眺めてだらしない顔をしているのは気のせいだよね。
「!見て!」
いや君の顔ならさっき見たけど、と答えようとして遮られる。
「街だ!!」
「ま、ち?」
アラジンの指差す方向を見る。……確かに何か建物らしきものがみえる。陽炎と合わさってぐにゃぐにゃしてるけど。これは……あれだな。所謂蜃気楼。
「……アラジン。あれってもしかしてしん」
「早く行こう!!」
「!あ、アラジン!?」
蜃気楼、と言い切らない内にアラジンは走っていってしまった。……まずい。蜃気楼ならいつまでたっても街があるわけがない。つまり早く追いかけないとアラジンとはぐれる。
私は急いで走り出した。
「!っはぁ……は……、…!」
息を整える。全力疾走なんて何年ぶりだ。
「てか……っ………ほんとに、まち……、!!」
「大丈夫かい?お嬢ちゃん」
ごほごほと咳き込んでいると近くにいた男性が声をかけてくる。大丈夫?、と聞かれたら大丈夫です、と答える他ない。
とりあえず周りの視線が痛いので影に移動する。
………まさか本当に町があったとは。
蜃気楼ではなかった。それほど大きくはないので町というより市場だが、覗き込めば人が往き来し露店が立ち並んでいた。
…普通に人、居た。
あんなに求めていた筈だったが、こう当たり前に居ると感動もなにもない。
人は皆アラジンと同じようなアラブ風の服装を身に纏っていた。…私、浮いてるな。
明らかに外国。だが、言葉は通じた。……普通、アラビア語とかじゃないのか。…アラビア語であるはずだ。もしくは英語とか…どちらにせよ日本語はあり得ない。
どく、と何か嫌なものが体を巡った。
「……アラジン」
とりあえずアラジンを探そう。お腹が空いてるはずだから直ぐに町を出ていったりはしないだろう。
人を探す、という目標は達成したけどまだアラジンと離れるのは耐え難い。
私は影から身を出す。周囲の目線がシャツの上から突き刺さるが極力無視して歩き出す。
…アラジンは背は小さいけど髪はよく目立つ。鮮やかな青…青。
「このコソドロがっ!!」
「…………いた」
いたけど、何してるのあの子。
大声の主は10代後半くらいの女子。その女子は台車…荷車?…に向かって叫んでいる。そして台車の中には青。
一瞬人違いかと思うくらいにお腹がふくれているアラジンの周りにはスイカ…だよな、スイカが散らばっている。それも食べかけ。台車の床には赤い半透明の果汁が飛び散り、アラジン自身もまみれていた。
……うん。食べたな。さては。多分、売り物的なやつを。
「あ!ハルおねいさん!」
「…ハルおねいさん?」
ギロ、と二人いる女子の内大声で叫んでいた方の女子が私に振り替える。
目が合うと少し驚いていた。汗だくスーツなので引かれたのかもしれない。
「…………すみません。ここは穏便に済ませてもらえませんか」
私は女子の元へ近づき頭を下げる。
「へ!?、!あ、えっと…」
「私たち暫く何も食べていなくて…そんなこと言い訳でしかないんですけど、ここは…どうか」
「ハルおねいさんっ!!」
アラジンが台車から降りてきて私の腕に抱きつく。う、うぅ…おろおろと泣いているアラジンの頭を撫でる。…怖かったん、だよね。多分。悪いのもアラジンだけど。
私は頭を上げ彼女の目をしっかりと見つめる。
「!っ…………」
「本当は弁償したいのですが生憎と無一文でして…何でもするので、お願いします」
お願いだから拳銃は出さないで。ついでにナイフとかも。ドスが出てきたら終わりだ。詰められる。エンコつめられる。
「!わ、わかったっ!!分かったらちょっと離れろ…っ!」
「え?あ、すみません」
感情を込めすぎてつい詰め寄ってしまっていた。1、2歩下がると彼女はほっと息を尽く。その頬は何故か赤らんでいた。
「……何でもするって言ったな」
「は、はい」
何でも…とは言ったが人権を侵害しそうなやつは出来れば避けたい。
そう覚悟している私を他所に女子は赤らんだ頬を両手で包んだ。