ジーザス

□私は理解していた
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ライラさんが私たちに出した条件は「三日間タダ働き」というもの。

それも鞭に打たれるようなこともなく完全なホワイト企業だ。寝床も提供してくれるらしい。これはむしろ好条件でしかなかった。

主な仕事は荷運び。それも女性でも簡単に運べるくらいの重さ。

アラジン、それと女子たち…サアサさんとライラさんと共に雑談をしながら荷を運んでいく。

内容はこの町のことだとか、最近はライラさんたちのような隊商(キャラバン)に潜り込む盗賊がいるだとか、そんな世間話。

「で、お前らはなんの目的で砂漠に出てきたんだよ?」

唐突にライラさんが尋ねる。私はその言葉に一瞬呆気にとられる。あ…そういえば帰る方法探さなきゃ。

「うん、僕はね!宝さがしをしているんだ。友達といっしょに!」

思考しているとアラジンがキラキラと顔を輝かせながら話す。

「友だちってハルさんか?」
「!えっと…ハルおねいさんは………えっと、…」

ライラさんが尋ねるとアラジンはあからさまに動揺する。断言しないのは恐らく私を気遣ってのことだろう。…気を使わなくてもいいのに。アラジンは子供なのだから。

「私とアラジンは数時間前に出会ったばかりなんだ」
「え!?そうだったの?」

二人はあからさまに目を開く。

「姉弟ではないとは思ってたけど…」
「たった数時間でそんなに仲良くなれるなんて凄いわ!」

ライラさんに続きサアサさんが答える。サアサさんは何故か私とアラジンを見比べてにこにこと笑っていた。

「!そ、そうかなぁ…」

アラジンは嬉しそうに頭をかく。…なんて嬉しそうな顔をするんだろう。私の頬も緩んでいた。

「だからアラジンが何のために旅をしているのかは私も知らない。…その宝っていうのはいわゆる金銀財宝、徳川埋蔵金みたいなもの?」
「とくがわ…?ううん!僕がさがしてるのは金属でできた楽器とかランプとかをさがしてるんだけど…」
「はぁ…んなもんが宝か?」

ライラさんの言う通り金属で出来た楽器やランプなど世の中にたくさんある。楽器なんて金属でできているものばかりだ。

「なんでそんなもん探してるんだ?」
「友だちの探しものだからさ。見つけて喜ばしてあげたいんだ。僕の大事な友だちだから、喜ぶと僕も嬉しい!」

一点の曇りのない純粋な思いに私は感心した。…こんな子供今時居ない。子供らしい子供…理想的な子供だった。

「紹介するね!僕の…大事な友だちの…」

え?紹介?

アラジンは自分の服をごそごそと漁る。考えられるとしたら携帯の写真とかだろうか。

「ウーゴくんです!」

出てきたのはリコーダーだった。サイズからしてソプラノリコーダー。その八芒星の絵柄はなかなかに中2ちっくで嫌いじゃない。……リコーダーか。

なんというか子供らしく斜め上をつかれたような感覚だった。確かに、私も小さい頃はお気に入りの椅子に名前を付け友だちと呼んでいた。恐らくそういう感覚なんだろう。

「…笛じゃないか……」
「笛じゃない。ウーゴくんだよ?ねっウーゴくん!今朝の果物のお礼して?」

アラジンは笛に口を付ける。…音はでない。が、

にゅるる、となにかが出てきた。
青い なにか。

それはやがて形を作り、巨大な二本の腕となった。

腕は現れるとライラさんの持っていたスイカを素早く奪い、そして笛の中へと戻っていった。

「こらっウーゴくん!ごめんね、彼シャイで…女の人相手で照れてるんだ…」
「………」


一同、騒然である。


「ぎ…!!」

_耳をつんざく悲鳴。それは主にライラさんのもの。

「ななっ、なんだ今の手っ…ヘビか!?」
「ちがうよ…ウーゴくんだよ!」

ライラさんは腰を抜かし、サアサさんはすっかり固まってしまっている。

なにせあり得るはずのない事象。笛から腕が出るという奇怪な姿。何より青い腕。人の腕ではない。そりゃあもう。驚かない人は居ない。

「?ハルおねいさんはそんなに驚いていないね」
「…いや十分驚いてるよ?」

勿論驚いている。驚いては、いる。

だが、何故か納得していた。…この感覚、確かアラジンの名前を聞いたときにも…

「…ん?」
「!!」

なんとなく視線を感じて振り替えれば男二人が居た。二人は私が見ていることに気づくとそそくさとどこかへと行ってしまう。…怪しい。例の盗賊というやつかもしれない。

まぁ、だからといってどうということもないけど。

「…アラジン」
「なに?」
「なんというか…君の友だちはアグレッシブだね」
「あぐれっしぶ…?」
「刺激的で、強そうってことだよ」

その"ウーゴくん"は生物学的にはどの種類に分類されるのだろう。人間の腕を模していたけど、哺乳類ってわけではないだろう。カタツムリのようにリコーダーが殻なのかもしれない。

「……」
「?アラジン」

黙ってしまったアラジンに気づき、声をかける。

すると、アラジンは顔を上げ私を見ると笑った。

「うん!ウーゴくんはとっても強いんだよ!!」

そう高らかに言うアラジンの頭を私は静かに撫でた。

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