灰色のルフ
□黒い青年
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バルバットを目指している途中、アリババさんから貰った食料も日が経てば尽きるもので、いくつかの小さな街にも寄った。
『ここも、か』
これで街に寄るのは三回目だが、どの街も栄えてるとはいえなかった。
廃れ、人々は路上に座り込み、路地裏からは怪しい視線が覗く。
…明らかに普通じゃない。それも三回目となってくると何か原因があるのは確実。
「もし…旅の人…」
『はい、?』
呼び止められ見ると、そこには痩せ細った女性が。
「…何か、何か買って下さりませんか…?」
女性の足元には萎れた林檎と少しの装飾品。…どれも"売り物"には程遠い。
『そうですね……ん?これ』
装飾品の中に紛れ込んでいたナイフを手に取る。何処にでもありそうなナイフだが……これは。
ナイフの刃を柄の部分から取り出す。…やっぱり。
そこには術式が書かれており黒いルフが集まっていた。…これも試作品か。
『…すみません。これ、貰ってもいいですか?』
「え?…ほ、本当ですかっ」
『はい。しかし…今手持ちが少ないので食料と交換でどうでしょうか』
「っ、ありがとう、ございます」
女性はノアから食料を受けとると大事そうに抱える。
『それから一つ聞いても良いでしょうか』
「はいっ、なんでしょうか…?」
『ここ近辺の街は、なぜこんなに荒れているんです?』
そう聞くと女性は少し怯えた顔をして俯く。
「…バルバットのことはご存じで…?」
『いえ…』
「今、バルバットでは内紛が起きているんです」
『内紛、ですか』
それはあまり良い状況ではないな。
「その影響で隣国の盗賊や、怪しい男たちがこの街に流れ込んで来てるのです…」
バルバットで内紛…。
あそこの国王は戦争など好きな方では無かったはず。隣国に影響が出るほどの騒ぎなのに、何もしないわけがない。
…しかし、対策は練られていない。
『教えて下さりありがとうございます』
「私こそ、…なかなか旅の人も買ってはくれませんから…。本当にありがとうございます」
丁寧に頭を下げる女性に応えてから、ノアは歩き出す。
『…』
バルバットで、何かが起こっている。
それはきっとこのナイフも関係しているはず。
ナイフの術式に触れると黒いルフが飛び散りナイフは無くなった。