灰色のルフ

□青髪と赤髪
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[第五夜 青髪と赤髪]

私がカシムさん…霧の団に雇われてから数週間が経った。

その間は何人か治療したり、私も屋敷を襲うのに協力したりと特に問題なく過ごしていた。

しかし最近、ある変化が起きていた。

『あ、カシムさん。今日はどちらへ?』
「例の屋敷から物資を奪ってくる」
『ああ…最近目立っているあの』

私がバルバットに来たときよりも遥かに霧の団は有名になった。それに戦力もついた。
しかし、それでも貧富の差は埋まらない。
国は義賊である霧の団の恩恵を受ける国民を卑下し、前にも増して差別していた。

『私も手伝いましょうか?』
「いや、ノアはここにいろ。俺たちの行く屋敷には絶対来るなよ」

カシムさんの表情は柔らかい。それなのに口調は有無を言わさぬ刺々しさ。

『…分かりました』

…最近、こんなカシムさんの態度が多い。
戦闘は愚か、外にまで連れていってもらえず、帰ってくるまで指定された部屋でお留守番。部屋の入り口には見張りがつけられている。…明らかに隔離されていた。

『……はぁ』

私自身、ここにいてもカシムさんが情報を教えてくれるので不満はないが。
…嫌われた、のだろうか…?もしくは、私の情報を何処かから耳にした…?

色々考えているがどれも適切ではない。

嫌われたのならしっかりとした食事や休養は無いはずだし、私のことを知ったならもっと探ろうとしてくるだろう。
しかし、カシムさんは相変わらず優しい。しかもその優しさには裏がない。

だからこんなに私は困惑している。

『……』

私の知らないうちにカシムさんに何かあったのだろうか。

チラリ、とドアを見るとそれを察した見張りが立ちふさがる。
…カシムさんは絶対に私をここから出したくないようだ。

見張り自体は突破しようと思えば出来るが、ここから出たことがバレてしまうのは問題だ。
…カシムさんと敵対関係にはなりたくない。

…今日、帰ってきたら聞いてみよう。

『………』

それまでは何時も通り本を読んで暇を潰す。

この部屋は書庫だ。といっても元々はスラムの誰かが趣味で集めていた物らしい。
集める、というのはそのままの意味で、捨てられていたものを拾ったり売れ残りをたまたまもらったり…。

そのため表紙がボロボロだったりページが抜けていたり、有名じゃない本や正直つまらない本も多い。

でも、だからこそここの本を読むのは好きだ。

私が何時もの定位置で本を読み始めると見張りの空気も幾分か和らいだ。

その空気を感じてから、私は本の世界に意識を落とした。

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