異譚・藤梅催花
□2. 藤浪現る《後》
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......そして今、
「加藤国広と申します。 ......ふふ、嫁入り道具は初めてかしら?」
【初期刀に『山姥切国広』を選ぼうとしていた私の前に、『加藤国広』が現れた!】
「......女の子?」
「あ、やっぱり女に見えます?」
......という冒頭の状況に至ったのである。
「主様?」
「......え? ええ? あの、えっと、まだ私、顕現の儀もしてないのに、なんで顕現して......?!!!!」
「僕を“藤”と呼んでくださったでしょう? え? 違ってました?」
戸惑っている私に対して、加藤国広はまたコテンと首を傾げる。
......早とちりかよ?! 何そのうっかりさん設定!!!! あざとい!!!!
そして呼んだつもりはないけど、くっそ可愛いなオイ!!!!
「......ちょっと整理させてちょうだい。」
私はただ一言、“藤”と呟いただけだ。
柘榴木さんの解説を聞いてみると、私の霊力と言霊が強いあまりに励起されて、その私の声を聞いた『加藤国広』は顕現したのだ、というのだ。
まぁ、確かにコントロールはともかく、霊力の量だけで審神者になれたようなモンだし、私。
......というか、私もなんで“藤”と呟いてしまったんだろう?
初対面なのに、どうして“懐かしい”と思ったんだろう?
「あーあ、顕現しちゃったよ......俺、知らないからね?」
「何言ってんの。 この新人さんの担当、お前だったろ山頭火。 審神者名とコードナンバー、ちゃんと確認してないの?」
「......マジで?」
顕現した加藤国広の姿を見て、山頭火さんが頭を抱え項垂れ、柘榴木さんはニコニコしていた。
......なーんか今、聞き捨てならない発言が聞こえたような......?
それよりオイコラ、あんたら役人だろ?! どっちでもいいから、助け船を早よ寄越せや!!!!
そんな人間たちの様子も気に止めず、加藤国広は実体のある人の姿を得た感覚に、嬉々としてはしゃいでいた。
「あー、アーあー、ラララ〜♪ ......ふふ、声が出せる、歌が歌える、手足がある、指がある......これが僕の身体ですか。」
無邪気に発声して笑ってみたり、腕や指を動かしてみたり、クルクルと回ってみたり。
キャッキャッうふふ、文字通りめっちゃお花が飛んでますよ。
嬉しそうで何よりなんだけど、顕現したてのホヤホヤの身体で転けたりしないでよ、お嬢さーん?(男の娘?かもだけど)
「うん、主様と僕の霊力の相性も良いみたいですね......身体に良く馴染んでしっくり。」
そして、ふと自身の腰の刀に触れてみて、一言ポツリ。
「......そして、これが“僕”か。」
妙に冷たい声だった気がするのは......気のせいだろうか。
「えーっと......あの、『加藤国広』って、『国広』っていうことは、堀川派なのかな......?」
耐えかねた私は、単純に問い掛けてみた。
すると、
「はいっ! 僕は国広の最盛期、堀川打の名作なのです!!!! え? ご存知ないのですか?!!!!」
元気良く、お返事してくれました。
......うん、さっきの冷たい声は、私の気のせいだな!
というか、自信満々ドヤ顔で自分自身を「名作」と宣いおったよ......加藤国広、恐ろしい子......っ!!!!
私の知ってる(欲しかった)堀川派の打刀と、キャラのイメージ真逆だなぁ......。
......いや、あの刀も国広の「最高傑作」らしいんだけどね? 比較されることにコンプレックス拗らせてるらしいんだよなぁ、私と同じように。
......だから初期刀には彼が、『山姥切国広』が欲しかったのだけれど。
「......もう一つ質問、いい?」
「はいっ! 僕に答えられる事なら何なりと!!!!」
――君の初期刀になりたいって。
加藤国広について柘榴木さんが言っていた言葉の真偽を、本人(本刀?)に確かめなければ。
「......その、あなた......私の初期刀になりたいって言ってたって、......本当に?」
「本当です。 僕は、あなたの初期刀になりたいのです。」
「......なんで?」
「あなたは僕が......『加藤国広』が最もお守りするべき存在だった御方と、同じ魂の気配がするんです。 だけど......ああ、そうか。 今のあなたは、僕のことを覚えていらっしゃらないのですね?」
......覚えていないもなにも、私、『加藤国広』というお刀様とは初対面のハズなんですが。
その目の前の美しい付喪神は、一瞬だけ泣きそうな顔をして堪え、私に向き直して、跪いて微笑んだ。
「それでも構いません。 僕を、あなたの初期刀にして頂けませんか?」
藤色の瞳は、真っ直ぐに私を慕っていた。
「僕の、主様になってください。」
懐かしい気配。
......ああ、そうだ。
表情をコロコロと変える、この無邪気な神様を、私は知っている。
きっと、ずっと遠い昔に知っているんだ。
それは、幼い頃の、かけがえのない友達のような。
「......っていうか、そっちこそ私みたいなバカをわざわざ主に選んで良いの? 加藤国広......ああもう長くてメンドイから、これからは藤って呼ぶわ。 私は『瀬織』。 ヨロシクね、藤。」
「......っ!!!!」
ぶわぁ!と花吹雪が舞い、頬を紅くして涙目になった藤は、私の手をガシッ!っと強く掴んだ。
「はいぃぃっ! 不束者でございますが、今生も宜しくお願い申し上げます! ひめさまぁぁっ!!!!」
「へ? ちょ、ちょっと、藤っ?! 掴んだ手をブンブンしないでっ!! って、痛い痛い普通に痛い!!!! 腕もげるっ!!!!」
「......あっ!!!! す、すみませんっ、姫様っ、つい......。」
「いや、うん......顕現したてだから、加減が分からないのはしゃーない。 お互いガンバロ。」
「! はいっ、主様っ!」
どんなに可憐な美少女のような姿でも、人間よりも剛腕な刀剣男士だっていうことが、よーく分かったわ。
......っていうか藤ちゃん?! その細い腕のどこに、そんな腕力と握力があんの?!!!!
あと、どさくさに紛れて、「主様」を「姫様」って言い換えてなかった? 聞き間違い? さすがに「姫様」って呼ばれるのは恥ずかしいんですけどっ!!!!
「......さて、お役人様?」
落ち着きを取り戻した藤がニッコリと営業スマイルを浮かべて、山頭火さんと柘榴木さんに向かって仕切り直した。
「僕と主様の本丸とやらは、どちらです?」
あー......そういや、すっかり忘れてたわ、役人のお二人。
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