異譚・藤梅催花

□1. 藤浪現る《前》
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......遡ること、数分前。


「なんでぇ?!!!!」

私は思わず叫んだ。

「なんで初期刀出してくれないのぉ?!!!!」

ここは、時の政府の本部の一角。
審神者になって早速、初期刀を選ぼう!っていうか、どの子が欲しいかなんて、とっくにキメてるけどねっ!!!!でへへへっ!!!!......なんて浮かれてた矢先に、出端を挫かれました、ハイ。

「私の『国広』は?!」
「ないよ。」
「じゃ、じゃあ、百歩譲って、姉さんが初期刀にしろと、しつこく薦めてた、『兼定』......」
「いや、だから言ったじゃん? 初期刀用の依代の刀は、本日品切れだって。 君の前の子が受け取った『虎徹』が最後の一振りだったのよ、悪いねぇ。」

時の政府の役人だというのに言葉遣いとノリが軽すぎる、窓口のチャラそうなスーツ男がヘラヘラと言う。

そういえば、私と入れ違いに出て行った同じ歳っぽい男の子が、誇らしげに『虎徹』を連れてゲートに向かって行ったっけ......めっちゃキラキラしてて眩しかったわぁー、何あれ? めっちゃ小宇宙燃やしてね? って感じだった。
うーん......姉さんの初期刀も『虎徹』だったなぁ......、あれ? なのに姉さんったら、なんで私には『虎徹』じゃなくて『兼定』を薦めてきたんだろ? 私の審神者名も勝手に登録しやがったし......ああああもう、クソ姉を思い出したら、ますますムカついてきた......


......じゃなくて!!!!

「審神者登録したら、五振りの打刀の中から『最初の刀剣男士を選択してください』っていうシナリオなんじゃないのぉ?! ちょっと遅れて来てみれば、初期刀みんな品切れとか!! 私ゃアニメ無印第一話のサトシか?!!!!」
「そうなんだけど、結構メタいね君?! しかも、この2205年のご時世に、ポケモンの初期ネタなんてレトロすぎて通じないでしょ、普通......」
「お兄さんには通じてるじゃん。 だったら話は分かるよね? 代わりのピカチュウ的なのを寄越せよ、オーキド博士!!!!」
「オーキド博士ちゃうわ!!!! 役割は被ってるけど!!!! ......っていうかさぁ、それが人に物を強請る態度かなぁ?」
「態度に関しては、お兄さんには言われたくないですなぁ? 政府の役人ってことは公務員? ねぇねぇ、公務員ってそんなに偉いん?」

さっきから同じレベルの低さで言い合っている自覚はあるけど、こうなりゃ意地だ。

そもそも、刀の付喪神の分霊を刀剣男士として顕現させるには、依代となる刀が要るのだ。
そして、審神者となってまず初めて顕現させる刀剣男士......つまり初期刀の場合は、政府が予め分霊を降ろしておいた刀を用意してくれるのが通例である。

......そう、つまり今回は、初期刀を余分に用意していなかった政府側の職務怠慢が悪いんじゃないですかねぇ?
ちょっと遅れて来たとはいえ、ちゃんと審神者として初期刀を受け取りに来た私は悪くない!!!!
......よね? うん、悪くない。

「んなこと言ったって、降ろせる分霊の数にも、限りがあんだからさぁ......」

お兄さんがブツブツ言っていたその時、不意に第三者が現れた。

「山頭火、」
「わっ?!」

驚いて、奇声をあげたのは、私。
いつの間にか、ふわふわした雰囲気の美女が居て、私の目の前のお兄さんに声を掛けてきた。
え? この人、どこから出て来た? 気配しなかったんですけど、いつからそこに居たの?!
格好も、お兄さんと同じスーツに白衣......ということは、このふわふわ美人お姉さんも、政府の役人だろうか? もしくは、白衣を着ているから、研究者とか?

......っていうか、『山頭火』って、このチャラいお兄さんの名前?
明らかに名前負けしてるなー、なんか国語の授業で聞いたような名前だし。

「あー、ゴメン、柘榴木、ちょっと後にしてくれる? 今この子の説得中なワケで......」

チャラいお兄さんこと、山頭火さんは慣れた様子で、面倒臭そうに言葉を返した。
ふわふわお姉さんの方は『柘榴木』っていうのかぁー、......ああ! もしかして、二人とも偽名かコードネーム?

「......あ。」

柘榴木さんが大事そうに抱えていた物を、私は見逃さなかった。
否、見逃せなかった。

「あーっ!!!! 刀、あるじゃん!!!!」
「うん、刀だね。」
「へ? ......あっ! ちょ、ちょっと待て待て落ち着け餅つけ!!!! ソレはダメ!!!! 渡せないヤツなのっ!!!! ダメダメダメダメ!!!! もー、何で今ココにソレ持って来たの柘榴木ちゃんんん!!!!」

柘榴木さんがにっこり笑って応えてくれたけれども、山頭火さんは一変、私に「その刀を下さい!!!!」とは言わせないとばかりに慌てて阻止に入った。

「えー? ケチーっ!!!! そのサイズ感は打刀でしょ?」
「ケチとかじゃないの、決まりなの!!!! コレは初期刀用じゃないからダメなの!!!!」
「別に初期刀組じゃなくても、他の打刀でも良いんじゃないの? 姉さんも『打刀は個性と相性の殴り合いだけど、戦闘能力はほぼ大差無い』って言ってたし......」
「良いワケねーだろ!!!!」
「なんでぇ?!!!!」
「うっわ、振り出しに戻った......つーか今の発言って、初期刀組及び打刀男士全員に謝罪すべき失言事案じゃね? そして君のお姉さんって、うっすらブラックっぽい気がすんだけど......?」
「......ブラック?」

確かに、姉さんの物言いや人当たりは結構キツいけど、ピリピリというより、ツンツンというか......

「うちの姉さんはブラックペッパーというより、ワサビっぽい人だと思います。」
「オイコラ、誰が真顔で香辛料に例えろっつったよ?!!!! ......計算なのかな? 天然なのかな? それとも単に、お馬鹿ちゃんなのかな? お兄さんもう泣いて良い?」
「泣きたいのはこっちなんですよ!! 刀寄越せ!! 出来れば『国広』寄越せくれ下さい!!!!」
「だーかーらーっ今日はもう無いっつってんの!!!! 姉妹揃ってブラック容疑で通報すんぞ!!!!」

私と山頭火さんがこんな頭の悪い問答をしている間、柘榴木さんは抱えている刀に何やら小さく「うん、うん、......ああ、そうなんだ。 ......うん、わかった。」とずっと語りかけていた。
そして、刀から私の方へ視線を向けたかと思うと、柘榴木さんは私にこう言い放った。


「ねぇ君、審神者名『瀬織』さん、だよね? ......この刀の主になってくれないかな?」
「......ん?」

この一言で、やっと流れが変わったのだ。


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