超高校級のわんこが通ります

□わんこと狛枝くん
1ページ/2ページ

「ではポチよ、今日も良い子で待っているのだぞ」
「わんっ!」

校舎の方へと歩いていく田中の背中を、ポチは今日も中庭から見守る。
田中の姿が完全に見えなくなったところで、ポチはぐでんっとその場に突っ伏した。

「くぅ〜ん…(退屈だ…)」

ご主人は授業に出なくちゃならないから仕方ないのは分かるけど…
でも!こうも毎日毎日中庭でお留守番はさすがに飽きるよー!!

うわーんっ!と芝生の上をコロコロ転がって、ポチは鬱憤を晴らす。

せっかくここは広いのに、おれだってもっと色んなとこ行ってみたい!
もっと遊びたいー!
冒険した、い…よ…?

そこでポチはふと動きを止めて考える。

あれ?冒険、すればいいんじゃない?

この前迷子になった時に、日向と別れた後、田中に校内の大まかな案内はしてもらった。
完全に覚えているかと問われれば答えは微妙だが、毎朝中庭までは歩いて来ているのだから、大体は分かるだろう。
それに、ここ最近は先日触れ合った不二咲以外にも出会う機会が多かった。
知り合いの増えた今なら、もしポチが迷子になっていても、誰かが助けてくれるかもしれない。
…その場合は田中に怒られそうだけれども。

不安要素が全くないとは言えない。
しかし、このスリルこそが冒険の醍醐味ではないだろうか。

………。
よし、行ってやろうじゃないか。

昼休みに田中が会いに来るまでのプチ冒険の旅へと出るため、ポチは勢いよく中庭を駆け出したのだった。



ポチは小さな胸をドキドキと高鳴らせながら、瞳をキラキラと輝かせて、授業中のため静かな希望ヶ峰学園の敷地内を一人歩いていた。

うわ…うわぁっ!
ここ、前にご主人と来たけど、こんな風にワクワクしたっけ?

なんて事ないただの道でも、普段田中と二人で歩く道をポチが一人で歩くことによって、その景色は普段とは全く別の、キラキラと輝かしいものに見える。

ルンルンと足取り軽く、意気揚々と尻尾を振りながらポチは探索を楽しむのだった。



同時刻、所変わって場所は希望ヶ峰学園本科の校門前…
そこに、先日とある事件に巻き込まれて世界中を飛び回った男ーーー狛枝凪斗は立っていた。

門の遥か向こうに高くそびえ立つ校舎を見上げて、彼は大きなため息をひとつ零す。

「はぁ…ボクはなんてツイてないんだ…。いつもより早く目が覚めたから、散歩でもしてから登校しようと部屋を出た矢先に、偶々密輸現場に居合わせて、口封じのためにそのまま荷物と一緒に海外に送られて、そこで今度は強盗事件に巻き込まれるなんて…。そのせいで二週間も学校を休む羽目になって…その間みんなの希望を見守る事が出来なかったなんて…本当にツイてない…。まぁ、でも、今こうして無事にここに戻って来られたわけだけどね」

どこか疲れの滲む顔で狛枝は自嘲気味に笑う。

「あぁ…そういえば、ボクが休んでいた間に、田中クンの所に新しいペットがやって来たって左右田クンが言ってたっけ…。みんなとの写真、楽しそうだったな…。ボクも仲良く…なんて、ボクみたいなゴミクズがそんな事考えるだけでも烏滸がましいよね。
…とりあえず、職員室に挨拶に行かなくちゃね」

長い独り言を終えた狛枝は、ゆったりとした足取りで門をくぐるのだった。



ふんふふ〜ん!
今にも鼻歌でも聞こえてきそうなほど軽やかな歩みを続けるポチの心は、今まで感じていた退屈さを覆すほどに満たされていた。

あー、楽しいなぁ…。
ちょっとは不安もあったけど、こんなに何もないんだったら、もっと早くにこうしてればよかったよ。

田中との言いつけを破った事は少し後ろめたいけれど、こんなに満たされた気持ちになるのなら、冒険に出てよかったとポチは思った。

でも、そろそろ引き返さないと、ご主人が会いに来る時間に間に合わなくなっちゃうよな…。
もう少し遊んでたいけど、正直おれも少し疲れてきたし…。
そういえば、そこの角を曲がったら中庭への近道になってたよな。
よし!じゃあ、ちょっと名残惜しいけど今日はもう戻ろうかな。
ちゃんと戻れたら、またこっそり遊びに出たらいいしな。

そう一人納得すると、ポチは近道に入るために角を曲がった。


「わっ…」
「わんっ!?」

角を曲がった先から突然伸びてきた硬いものに頭をぶつけたポチは、あまりの痛さと驚きにその場に蹲った。

な、なんだ!?
何が起きたんだ!?

目だけをキョロキョロと動かして周りを見回すポチの頭上から、聞き慣れない声が聞こえてきた。

「ねぇ、キミ、大丈夫?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ