Novel

□すれ違い
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渡辺side

ダンスレッスンの休憩中、飲んでいたお茶が空っぽになって近くの自販機まで歩く。

自販機の前に着いて、お茶を買おうと財布を取り出したけれど、
レッスン室の近くであることもあって、お茶が全て売り切れてた。

一つ上の階に上がるしかないと思い、階段を目指して歩こうとした。

「ぺー何してんの?」

急に後ろから呼ばれて振り返ると、まなかがいた。

「んん、お茶買いに行こうとしてた」

「あっ売り切れてたでしょ。私が買ったので最後だったからさ。
これ、1本あげるっ」

はいっ、とまなかが私にお茶を差し出す。
なぜか、まなかは2本持ってた。

「ありがとう、でも、なんで2本?」

「あぁ、おだななにパシられて買ったやつ。
おだななの分だからあげるよっ」

悪巧みをする子供みたいな顔でニヤニヤと笑う。

でもきっと、そんなこと言ってるけど、優しいまなかのことだから、
だにをからかった後は、結局自分の分をだににあげちゃうんだろうな。
なぜだか想像つく。

まなかからもらったお茶を、近くにあったソファに座りながらゴクゴクと飲んだ。

すると、まなかもレッスン室には戻らず、私の横に座ってきた。

「あのさ、ぺーに聞きたいことがあるんだけど、さ、、」

真面目な顔をして真っ直ぐ目を見て聞いてくるまなか。
ただならぬ雰囲気で、少し怖いと思ってしまう。
なにか相談なのかな?

「う、うん。」

「えっと、ぺーってさ、今、付き合ってる人とかいる?」

ダンスとか歌とかそういう相談だと思ってたから驚いてしまった。

そんな私とは裏腹に、まなかは真剣な眼差し。


付き合ってる人なんて、、、


「いないよ。」

「そっか、うん。じゃ、じゃあ、好きな人とかは?」

まなかは、私が一番困る質問をぶつけてきた。


まなかに一番聞かれたら困る質問を。


「いるよ。好きな人。」

「えっ、あ、そうなんだ」

目の前に。一番私の近くに。
大好きな人が。
好きで好きでたまらない人が。

もちろん、そんなこと伝えられない。

伝えても、まなかの重荷になるから。
フラれて、関係がギクシャクするのが、恐ろしいから。

こんなにもまなかは近い距離にいるのに、想いを告げられない。

唇をぎゅっと噛んで、俯いた。

「それってさ、どんな人?」

まなかはまた聞いてくる。

私が困ってるの、絶対気づいてない。

まなかってどんな人かな。
いつものまなかを思い浮かべる。

「えっと、
すごく優しくて、運動が得意で、
周りの雰囲気を明るくしてくれて、
なんでも受け止めてくれて、
笑っているときが一番輝いてるような、そんな人だよ。」

まなかの特徴というか、まなかの好きなところを言った気がする。

でも、それくらいまなかが好きなんだってこと改めて気付く。

心臓の鼓動が早くなって、少し泣きそうになる。
俯いて、握っていたお茶に視線を落とした。

「その人って私も知ってる人?」

まなかの質問が続く。


知ってる人?って、
そんなの、、、


「うん。まなかが一番知ってる人だよ。」


まなか自身なんだよ。
怖いけど、気づいて欲しいな。


そんな想いでいっぱいで、心臓の鼓動も早くて、まなかの方を向けない。
頭がいっぱいいっぱいで気づかなかった。


まなかの、


「ぺーが好きなのりさかよ。
勝ち目ないじゃん。」


うつむき気味で小さく呟いた言葉に。


「そっか。そんな素敵な人を好きなんだね。」

「うん。あの、、、私も聞いてもいいかな。」

「えっ、あっうん!いいよ。なに?」

この際だから、私も聞きたい。

まなかは、

好きな人とかいるのかな。

「まなかは、、いるの?好きな人。」

「いるよ。」

即答だった。
でも、なぜか、すごく悲しい顔で。
笑っているのに、その笑顔は、
無理矢理貼り付けてるような。
そんな顔で。

そっか。いるんだ。まなかにも。

好きな人。


「いるんだね。」

「うん。」

「まなかは、優しいから、
告白したら絶対うまくいくよ。
応援してるからね。何かあったら相談してね。協力するよ。」

ベラベラと勝手に口が動く。
言いたくない言葉が、
次から次へと。


本当は、
聞きたくないよ。
まなかの恋の話なんて。
でも、もう、


私の恋は報われないから。


「ありがとう。なんか、救われた気分になるよ。
まぁ、ぺーだから頼りないけどねっ」

私をからかうような言葉を言う。

でも、気づいてるよ。
苦しそうな顔してるの。

理由はわからないけれど。


「じゃぁ、そろそろもどろっか!」

まなかの言葉に頷いて、ソファーから立ち上がる。


まなかの少し後ろを歩いて、レッスン室へ戻る。


まなかの後ろ姿がぼやけて見えるのは、
きっと気のせいだよね。
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