Novel

□曇
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守屋side

別れの挨拶を交わして友香の部屋を出る。
扉を閉めた後、いつも通りに見えるよう頑張って作った笑顔はすぐに消えた。

友香の家を出て、自分の家に帰って。
自室へ向かう足取りは経験したことないほど重い。
部屋に入るとベッドに雑に寝転がって、天井を見上げた。
さっきまでどうやって笑顔を作ってたのか、全く思い出せない。
一瞬で天井が歪んで、熱いものが頬を伝ってシーツに染み込む。
手の甲で口元を抑えて、嗚咽をかき消そうとしてもなかなかうまくいかない。


初めて友香とキスをした。
正確に言うと、意識のある友香にキスをしたのは初めてで。
今までは、寝ている友香にそっとキスをして、必死で抑えている想いを少しでも消せるように。
キスした後は、幸福感と申し訳ない気持ちが入り混じって、複雑な気持ちになった。
けれど、それは止めることができなくなって、いつの間にか習慣になってた。

今まではばれないように、密かに行っていた行為なのに。

雷が怖くて抱きつく友香が、あまりにも可愛くて。
友香の甘い香りも、怯えてこちらに向ける上目遣いも。

もう我慢するのは無理だと悟って。

キスする直前で『ごめん』と無意識についてでた。

勝手にキスをしてごめん。
という意味なのか、
自分でもわからない。

けれど、
勝手に友香のことを好きになってごめん。
という意味合いの方が強いと思う。

ずっとそばに居てくれた幼馴染みに対してこんな感情を抱いてしまった。
勝手に好きになってしまった。
友香も私のことを好きになって欲しいなどと願ってしまっていた。

あまりにも自分勝手な想い。

だからこそ、このキスでもう終わりにしようと思った。
これが、ずっと秘めてきた初恋の終止符になればいいと。

キスが終わった後は、
いつも通りの笑顔を友香に向けた。
痛いほど脈打つ心臓も気づかないようにして。

それでも、心の何処かで
友香がキスしたことを気にしてくれるんじゃないかって、
ドキドキしてくれてるんじゃないかって、考えて。

けれど、友香は平然としてて、ただのスキンシップにしか思ってくれなかったんだって気付かされた。


私の想いは、明らかに一方通行で、絶対的に交わらない。


ごめん。友香。
友香への気持ち、ちゃんと忘れるから。
どれだけかかるかはわからないけれど、少しだけ時間が欲しい。


途絶えることのない涙と部屋に響く嗚咽は、もう制御することなんてできなくなっていた。



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