ー短編ー
□いつか…
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謙信「…なに?名無しさんが熱をだして寝込んでいる?」
自室で一人書き物をしていれば景家が慌てた様子で入ってきて名無しさんが寝込んでいると伝えに来た。
景家「謙信様!是非とも見舞いに行ってやってはくれませんか?」
謙信「…何故、私なのだ?」
心配しているのならば自分が行くものではないのだろうか?
景家「あー…いや、あの!えーと……自分はあいつとあまり仲良くはありませんし、景持と違って女心も良く分かりません。怖がられる事の方が多いですから病人の側に行くのは……」
肩を落としながらもじもじと答える景家。
優しい奴だと言うのに…難儀な奴よ。
謙信「…わかった。執務が終わり次第向かおう。」
景家「おぉ!ありがとうございます謙信様!では自分は仕事に戻ります!」
…よほど気にして居たのだろう。
晴れやかな顔で去っていく景家。
謙信「…さて、早く執務を終わらせねばな。」
名無しさん「……ん。」
熱で朦朧とする頭を起こして目を開けると謙信様が布団の横に座りこちらを見つめていた。
名無しさん「!?」
びっくりして慌てて起き上がれば力が入らず傾く身体を謙信様が支えてくれた。
謙信「大丈夫か?」
間近で見つめられ赤くなっていく頬。
謙信「いきなり起きては身体に障る。…まだ熱があるのだろう?」
頬に手を添えられ心臓が早鐘を打つ。
謙信様から離れようと身を捩れば抱きしめていた事に気づいたのか慌てて私を布団に寝かしてくれる。
謙信「す、すまない。咄嗟にとは言えあの様な…こほん!……か、景家からお前が熱をだして寝込んでいると聞いて様子を見に来たのだが、うなされていた様でな。部屋に入らせて貰った。」
少し赤くなりながら話してくれる謙信様。
謙信「…で、身体は大丈夫そうか?何か欲しい物があるなら持って来よう
。」
…そういえば喉が乾いている。
名無しさん「……お水を…」
謙信「…入ってもいいか?」
そう襖の向こうの名無しさんに声をかけるが返事はない。
謙信「…はいるぞ。」
静かに襖をあければ水を取りに行く前よりも赤くなった顔。
息も大分上がっている。
近寄り背中に手をまわし、起き上がらせればうっすらと開く瞼と僅かに動く口元。
謙信「…水を持って来たが飲めそうか?」
そう問えば水に視線を移すが、熱が上がってきて力が入らない身体では起き上がれない様で諦めた様に首を横に振る。
…仕方ない。
名無しさんをゆっくり布団に寝かすと持って来た水を少し口に含み名無しさんの形の良い口に親指を滑らせば口移しで少しづつ水を流しこむ。
名無しさん「…///!!」
…ゴクッ。
飲み終えたのを確認して口を離すと真っ赤に染まった顔の名無しさんと目が合った。
謙信「飲めたか?」
問えば首を縦に振るが、恥ずかしさが我慢出来ないのか布団で顔を隠してしまう。
…ふ。
可愛らしい反応に思わず笑みが溢れる。
さて、そろそろ戻らねばな。
立ち上がろうとすると裾をちょん。と引っ張られた。
名無しさん「……か、風邪…移したら……」
自分の風邪が私に移る事を心配しているらしい。
謙信「お前の風邪を貰うのは悪い気はしない。…まぁ、総大将の私が言ってはいけない言葉だが。」
そう言えばまた布団で顔を隠してしまう。
謙信「では私は戻る。…なにかあったら誰かを呼ぶ事。いいな?」
そう言い残し襖に手をかければ礼を言う小さな声が聞こえた。
自室に戻り執務に戻ろうとすれば過るのは名無しさんの顔。
…私は名無しさんの事を好いている。
今まで自分を誤魔化して来たが、もう自覚せざるを得ない。
…だが、私は総大将。
私情で動く事は許されない。
ましてや弱みを作ってしまったら名無しさんの身に危険が及ぶ。
謙信「…いつか…」
…いつか、平穏な世になったら気持ちを伝える事が出来るだろうか。
…いや、違うな。出来る出来ないではない。
謙信「…必ずしてみせる。」