夢小説集@

□宝石の国
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行かないで

「戦争って怖い?」

フォスフォフィライトが生まれて二百五十年目、彼はそんな事を聞いて来た。彼は何をやらせてもダメ。硬度は三半でとてもじゃないけど戦う事は不可に近い。そんな彼は戦争に憧れていた。出来る事かもしれない、という気持ちで。

「戦争は…」

勿論、戦争は怖い。攫われて、もうここには戻れないかもしれない。確かに矢尻に使われて、少しずつ戻って来た仲間もいるけれど、長期休養所から出られた宝石を私は知らない。
私も一度砕かれ、攫われそうになったことがある。その時はボルツと先生にも助けられたけど、私はそれから月人が怖くなって、見回りも戦争も怖くなってしまった。今はこうして図書室に篭ったり末っ子の世話をしたりする毎日だ。けど、純粋な海緑色の瞳にでたらめな事が言えなくて、

「怖い事だよ」

つい本音をこぼしてしまった。

***

「フォス」

学校に篭って震えていた私とは違って、戦争に憧れ続けたフォスはもう何百年も戦っている。紛失した足はアゲートに、腕は合金に変わってしまった。髪型もアンタークのように短くして、心なしか目つきも彼に似てきている。

「どうしたの、ミツバ」
「月人の予兆の黒点だって、でも出れるやつ皆出払っちゃってて……」
「それじゃあ一緒に行こう、何処に出た?」
「えっと、南の方の……」

けれど私は今、フォスがいる時だけ戦争に出ている。フォスが居なくならないように、フォスが砕けないように、見張るために。フォス、私の可愛い弟。諦めているのは分かっているけど、それでも月に行って欲しくなくて。

「ねぇ、ミツバ」
「なぁに、フォス」
「戦争って怖い?」

勿論、戦争は怖い。

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