夢小説集@
□宝石の国
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前任者の話
去年まで私が担当していた冬の仕事を、今年からは寒くなるほど強くなる宝石が担うという事を先生から説明された。教育が終わり、今年から本格的に仕事を与えていくという。私はもう冬の仕事にうんざりしてきていたから、少しほっとしたのは秘密だ。
ふと気になって、彼の部屋に行くと室内には大きな浴槽が設置されていた。部屋へと足を踏み入れ、浴槽を覗き込めば中は大量の水で満たされている。
「彼がアンタークチサイトだ」
いつの間にか部屋の入り口に立っていた先生に慌てて礼をする。先生が浴槽の前まで歩いてくると、浴槽の縁を優しく撫でた。
「今はこうして液体になっているが、冬になると結晶化する。」
「彼の硬度は」
「硬度は三。ミツバよりも低い硬度だが、寒くなればなるほど強くなる」
「硬度三なのに、すごいんですね…」
「お前も今まで皆の眠りを護ってくれて、ありがとう」
「お役に立てていたなら、良かったです。」
浴槽の縁を撫でていた手が私の頭に置かれ、優しく撫でられる。
「今年の冬はまだ少し起きていてくれ、アンタークチサイトに仕事を教える必要がある」
「はい、わかりました。先生。」
今年の冬は忘れられない最後の日になるだろう。
***
「と、ここまでが冬の仕事だけど…出来そう?」
「問題ない。」
アンタークは私の仕事をしっかりと覚え、復唱させても完璧なぐらいに仕上がった。
「良かったぁ、私はこれから冬眠に入るけど上手くやってね。」
「分かった、感謝する。」
「…あ、あと。」
少し眠くなった体をよろつかせながら、アンタークの傍まで歩み寄る。
「先生が寂しくないように、冬をお願いね」
彼はふっと笑い、もちろんだと頷いた。安心ね、と冬眠室へ向かう私を背に彼はオブシディアンの作った大きな剣を携え、レッドベリルの作った白い衣服に身を包み、黒いヒールをカツカツと鳴らし、仕事へ向かった。
「さてと!私も、先生に寝る前の挨拶をしなきゃ!」