夢部屋
□*恋話
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中庭に八左ヱ門を見つけた。きっとこの方向は生物委員会が飼育している小屋にでも行くのだろうか。
名無しさんは、意を決して声をかける。
「ハチ、勘右衛門いる?」
八左ヱ門は振り向くと、ああ呼んでくるよと笑顔で教室に向かった。
「一緒に行く」
その後をついて行く名無しさん。
八左ヱ門に話をしてみると、彼は生物委員会に行くようだった。今飼っている虫の話をしてくれたが、よくわからない。
それよりも生き物の話をしているときの彼の楽しそうな顔に夢中になっていた。
そんな二人っきりの幸せな時間はあと少しで終わり。
もう教室まで来てしまった。
そんな名無しさんの気も知らないだろう八左ヱ門は、すぐ教室の戸を開けてしまった。
「勘右衛門、名無しさんが呼んでる」
教室を覗く彼の後ろからこっそり背中を眺める。
広い背中に抱きつきたくなる衝動を抑え、気づかれないように一つ髪の毛を掬い指にからめる。
少しでも彼に触られて幸せ。
それも束の間で。
勘右衛門が顔を出してきたので、手を隠す。
「名無しさんどうしたの?」
「勘ちゃん聞いてー!また相談したいの!」
勘右衛門にすがりつくと、頭を撫でてくれた。
「悩みが多い子だね、名無しさんも。」
そーなのよ、という名無しさんをなだめながら勘右衛門はチラリと八左ヱ門をみた。彼は目をそらし、気まづそうに入口に立っている。
「でもごめんね、私もこれから委員会なんだ。だから今日はハチに聞いてもらって?
いいでしょ?八左ヱ門。」
「ちょ、ちょっと!」
それはまずいのではないか、と焦る。
勘右衛門は名無しさんの相談内容を知っていてわざと八左ヱ門に託した。
「じゃ、よろしくね〜」
と、2人を取り残し後ろ手を振りながら去っていってしまった。