夢部屋
□*捕まえたい
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「……ふぅ。」
今回の実戦は結構長引いたせいもあって、ゆっくり休もうとまず風呂に入りに来た。
たぶんそろそろあいつが来るだろう。
ガラガラ…
「先に来てたのか?」
「なんだ、仙蔵か」
外れはしたが、安心した。
「なんだとは、なんだ。名無しさんだと思ったか。残念だったな」
「残念なものか。安心した。こういう時くらいゆっくり浸かりたいものだ」
ははは…とふたりで笑っていると、いつの間にか名無しさんが立っていた。タオル1枚で。
「お待たせしました、文次郎さま…お背中流しますわ。」
「結構です。」
キッパリ断る。もうこいつが風呂場にいようが、タオル1枚であろうと動じない程に心身が鍛えられていた。ある意味感謝している。
仙蔵も気にもしない。もう同性のような扱いだ。
なんだったら、皆、こいつの前でも着替えれるようになってきた。
(最初は衝撃的なことばかりだった。女なんて、皆、俺のこと嫌いだと思っていたしな…)
そんなことも思いながら、目を瞑り今までのことを振り返る。
だが、いくら考えてもひとつもいいことが出てこない。
「ねえ、もしかして文次郎さま…、今私のこと考えてくださってる?」
名無しさんは湯船にはいり隣に引っ付いていた。
いつまでその口調なのだ。
「ああ、お前とのことを振り返ってみていたが、何一ついい思いをしたことがないのだ。」
「そうでしたか…、私には文次郎さまとのいい思い出ばかりでしたが、、ひとつもなかったのですね」
空気が重くなる。
ちゃぷん、とお湯の音がやけに響いた。
「…おい、文次郎。」
この空気の原因を仙蔵が咎めようとしたのか声をかけてきたが、怪しい彼女の動きを先に察した。
「騙されるかッ!!」
(…チッ)
目を瞑っているうちに口吸いをされるとこだったが、かわした。
「名無しさんお前、今舌打ちしたよな?」
「もう、もんじったら…恥ずかしがり屋さんね」
本人は全く気にしないし、へこたれない。なんという忍耐力。
このまま彼女に付き合ってるとのぼせるので、スルーして仙蔵と上がることにした。