夢部屋

□*Web拍手
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[潮江文次郎]

(…誰か好きな奴でもいるのか?)
彼女はふるふると首を横に振る。
(じゃ、俺と付き合ってくれ。今はまだわからなくてもいい。これから知ってくれたらいいんだ。)



「はぁ…」
今日何度目かのため息。

先日、好きになった奴と付き合えることになった。
押すだけ押したので無理矢理感はあったのだが、彼女から了承を得たのだから良しとしよう。

なんか不満でもあるのかと、仙蔵に聞かれたが彼女に対してそんなものあるはずがない。

手に入ったらこの気持ちも多少落ち着くと思っていた。

だが、実際はそんなものじゃなかった。

手に入ったら入ったで、誰にも触れてほしくないという気持ちが強くなった。
それに、自分だけをみてほしい、頼られたい、あの声で名前を呼ばれたい…同じ気持ちになってほしい。

(俺はこんなにも欲深かったのか)

相手に求めることが多くて、自分自身に呆れてしまう。

仙蔵にもお前らしくない、鍛錬してこいと部屋から追い出される始末だ。

気晴らしに裏裏山にでも行くかと向かっていると、
数人のくノ一が歩いているところに彼女もみえた。

あちらも気づいたようで、微笑んだ上に軽く手を振ってくれた。

自分も手を軽くあげて返したが、上手く返せたかわからない。
彼女の可愛さにやられていたのだが、気づいたら当の本人が目の前にいて驚いた。

「先輩…。あの、明日空いてますか?町へ一緒に行きませんか?」

恥ずかしそうに照れながら言う彼女は最高に可愛くて。

「…ああ」
と、上手い返事もできないまま彼女の頬に触れようと手を伸ばした。

その瞬間、

「…なにしてるんだ?文次郎」

後から彼女の兄貴…小平太の殺気立った声がした。


忘れようにも逃げようにもできない問題に引き合わされ、今日1番のため息が出たような気がした。
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