長編(鍾会オチ)

□無自覚スケベ
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「もう朝か……」
名無しはお腹をさすりながら
気だるい体に鞭を打って今日も体を起こす

目の前にはまたいつも通り鍾会が既に起きており
朝の天気予報をぼーっと見つめていた





「食べ終わったらいつものように水につけて置いてくださいね」


いつも通り朝の支度をひととおり済ませ
朝ご飯をリビングの机上に並べると
鍾会にそう告げ、いってきますと出勤しようとする

「待て」

いきなり鍾会が名無しの腕を掴み引き止めた

「いかがされました?」

名無しが鍾会に問いかける

「お前……怪我をしているな……」

「は???」


突拍子もない鍾会の言葉に名無しは疑問符しか浮かばない

怪我などしてはいない
一体この人は何を言っているのだろう

「怪我などしていませんよ?」

「嘘をつくな!とにかく会社とやらには行かせんからな」

納得してくれない鍾会はまだ名無しの腕を解放しようとしない
それどころか会社を休めとまで言い出す始末だ

「ほんとにしてません……どうしてそうなるんですか」

「じゃあこの血の匂いはなんだ!!私を謀れると思ったのか?
この阿呆が」

鍾会の真剣な声に圧倒されながら名無しの顔が赤くなる

そんな匂いを嗅ぎとってしまうなんて……三國の武人は侮れない

「その……し、失礼します」

一瞬の隙をついて鍾会の腕を振り払い玄関へ向かう


「待て!」

結局武人の鍾会から逃げ切れるはずもなくまた捕まってしまった

「……足下の方か?放っておくと化膿する


私が手当してやる

見せてみろ」

しゃがんでスンスンと嗅ぐような仕草を見せられ
恥ずかしくなる

「おいどうした!この他でもない私が直々に手当してやると
言っているんだ!
手間を取らせるな……

早く見せなよ」

早く見せなよ……って
無いものを見せろと言われても……

名無しは困り果てる

業を煮やした鍾会が名無しの足に手をかけた

「私の手を煩わせて……」

「ひっ……??!」


信じられないことに名無しのタイツを引っ張り下に下げる鍾会

いつもの彼ならこんなことはきっと出来ないだろうし
逆に名無しが目の前でタイツを脱ごうとすると、それだけで
目を閉じてそっぽを向くくらいだ

だが今は彼女の怪我をどうにかしてしないとと言う考えでいっぱいになり周りが見えておらずこうして無自覚に大胆な行為に及んでしまっている


「ち違います!!!その、今日は…女の子の日…です」


まずいと思った名無しは下げられたタイツを上に上げようと
抵抗しながら
言葉を濁して鍾会に告げた

「女の子の日……??」

鍾会は顎に手を当て考える









「一体何のことだ、まさかいつもが男だとは言うまい」


つ……ツウジテイナイ……


鍾会は本当に分からない、と言った体で名無しに告げるので
名無しは余計に恥ずかしく言いづらくなる

「せ、生理です……」

小さな声で、でも確かに今度こそ伝えたが
鍾会は……

「整理?なにを片付けるのだ」

ツウジテイナイ……




昔はそんな言い方をしなかったのだろうか

正直に伝えたのにまだ伝わらず
とんだ羞恥プレイだと名無しは苦悩する


歴史は詳しくはないけれど
時代劇なんかではよくこの事をなんと言っていたのだろう

暫く考えたあと一つの答えを導いた名無しは今度こそ伝わることを祈り鍾会に告げた

「月のもの、です」


瞬間ボッと顔から湯気が出るのではと思うくらい
赤面し離れた鍾会を見て

伝わったのだと安心するも
恥ずかしくて堪らない複雑な心を抱えながら
今度こそ彼の手から逃げるように出勤したのだった



「遅刻だなこれは……」

腕時計を見てまた一つ溜息をつく

まだ胸がドキドキしていた

力が強く、逃げることも出来なかった

彼も男なのだと嫌でも認識させられる

それにしてもいつもぶっきらぼうで

家事を教えようとすると

「そんなもの女中にやらせればいい」

とか

「この私がそんな事をやると思うか」

などと言い一切覚えようとも手伝おうともせず
名無しが帰ってきてもチラっと目が合えばテレビにすぐ視線を
戻す鍾会だったので
あまり自分に関心はないのだろうと思っていたが

今日、彼が尋常ではない様子から
名無しを真剣に心配してくれていたのがてにとるようにわかった

それは自分が倒れれば鍾会も行き場が無いからに過ぎないからなのだろうがという結論にはなるが、それでも心配してくれたのはやはり素直に嬉しい

今日は少し豪華な夕飯にして驚かせてあげよう、と
会社への道を急ぎながらは名無しは密かに意気込んだ
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