それがあなたの夢ならば

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彼に会うためなら、何でもしたいと願った。
その結果が、自分自身が『国』になるという事だった。

「まず、どうしたら国を立ち上げられるか調べなきゃね」

本当は彼らに頼りたい。
けど、それはできない。
私1人で成し遂げる。そして、皆をびっくりさせるんだ。

「やっぱり、こういう時は図書館ね」

背の高い本棚にはたくさんの本がびっしりと並ぶ。
図書館なのだから当然の景色であるが、図書館などほとんど来たことがない私にはそれがとても珍しく、そして居心地が悪く感じた。

「やっぱ本は苦手だなー」

図書室ならまだ何とか授業で慣れていたので耐えられていた。
が、やはり図書館は……。

「広すぎてどこ見ればいいかわかんない」

1人でそうぶつぶつ呟くと、数人が私の方を見た。
しまった、ついうるさくしてしまったか……。

「星花……?」

すると、聞き覚えのある声が私の背中の方から聞こえてきた。
こちらを一瞬見た数人に紛れた彼は、真っ直ぐに私を見つめている。

「あ、アーサーさん……」

確か、彼も……。

「お前がこんな所に来るなんて珍しいな。どうしたんだよ」

だいぶ驚いた様子で、アーサーは私に近づいてくる。
そして、私がどうにか見つけ出した数冊の本に目を止めると、一瞬動きを止めた。
すると、すぐに手首を掴まれる。

「おい、お前何のつもりだ。お前が勉強なんてまず有り得ねぇ、この本は何だ」

掴まれていない片腕に抱えたその本には、「日本の成り立ち」、「世界の国々と政治」、「国とは・国である条件」等、とても私には不釣り合いな物ばかり。
答えられずに黙っていると、そのまま腕を無理やり引っ張られる。

「場所変えんぞ」

そのまま抵抗することもできずに、私は彼に腕を引かれるまま人気の少ない物陰まで歩いた。

「あの教師から事情は聞いてる。お前が俺たちに近づくなって言われたことはな」

私は黙って続きを待つ。
きっと怒られる。
自然と、目をぎゅっと瞑っていた。

「まさか、お前『国』でも作る気か」
「……」

答えられない。
でも、それが答えているも同じということは、私でも分かっていた。
そんな私を見ながら、呆れた顔をするアーサー。

「お前なぁ、本当にばかだろ。そんなんで本気で俺たちと同等になれるとでも思ったのか?」

同等。
そんな言葉に私と彼らとの差を感じる。
悲しさで、自然とそれは目に溜まっていく。

「あ、いや、言い方が悪かった。だから、ほら、泣くなって!」

オロオロするアーサーだが、その気遣いすら今は辛い。

「私が……、私が間違ってた。でも」

ぽつりと呟いたその声にアーサーはその慌てた顔のまま私の瞳を見つめた。
その目は優しい緑のはずなのに、優しさよりも痛みを感じた。

「私でも、ほんとは無理だなんて分かってるんだよ。馬鹿だなんて、この補修常習犯の私にだってさ! でも、他にどうしたらいいの? あんたには分かんの!?」

心の叫びはそのまま口を飛び出て、目の前の彼に見えない傷をつけていった。
その場に残ったものは、私が生み出せたのはそれだけだった。

もう、この場にいることなどできない。
アーサーとももう会わない覚悟を決め、その場を駆け出そうとした。
が、その腕はしっかりと掴まれていた。

「はぁ……。お前なぁ、人の話は最後まで聞いとけ」

彼のその目はずっと優しかった。
痛みを感じたのは、私の気の所為。
それは、この離されない腕が物語っていた。

「わ、私……」

私は間違いなく今彼を傷つけた。
私なら、怒ってそのまま口を聞かないだろう。だが彼は違う。
その優しさに罪悪感が増し、顔を俯けるしかない。

「本気でお前は俺達がそんな馬鹿みたいな争いすると思ってんのか?」

そっと、目を合わせるように顔を上げる。
私は余程ひどい顔だったのか、それを笑いながら言った。

「お前のその顔見たら、あいつすっ飛んできそうだな。……まぁ、それはいい。だから、心配すんなよ」

優しく笑いながら頭を軽く撫でられる。
その感覚にどこか懐かしさを感じた。

「……フラン兄」

そうだ、彼にも謝らなくちゃならない。
あんなに怒ってごめんなさいって。
きっと優しさからああいう態度をとってくれたはずだ。
私の周りは、優しい人ばかりだな。

「私、あの人にも謝らなきゃ」

すると、驚いたような顔をする。
が、そして少し苦笑した。
さっき呟いたのを聞かれてしまったようだ。

「……あぁ、そうか。行ってこいよ」

私はぺこりとお辞儀をする。

「ありがとうございました。大事なことがやっとわかった気がします。それと……」

少しもじもじする。
私はあまりそういうことには慣れていない。

「傷つけるようなことを言ってしまって……。その、ごめんなさい」

最後は少し口ごもってしまったが、人生で一番丁寧な謝り方をした気がする。
そして私はもう1度礼をいい、別れを告げるとフランシスの家へと駆け出した。


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