それがあなたの夢ならば
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思わず目を見開いた。
まさか、菊が私の故郷だとは……。
だが、そうすると今までの行動にも頷けると思った。
妙に謙虚な姿勢。
無駄にお硬い喋り方。
疲れそうなほどにぴんと伸ばした背筋。
どれもこれも日本人特有のものかもしれない。
「ま、まさか私の故郷だとは……」
理解はできてもまだ何となく戸惑ってしまう。
心が追いつかないとはこういう事なのだろうか。
「ふふふ、そんなに驚くことでしたか?」
「いや、だって。自分の故郷ってことは、私にとっては菊はすごい偉い人っていうか」
なんと言えばいいのか分からないが、とにかく今までの菊に対しての言動がとても失礼だったのではないかと心配になるが、当の本人は微笑んで首を横に降った。
「そんなに気にしないでください。今まで通りでいいんですよ」
「そ、そう?」
菊が言うなら、いいか。
すると、菊はすっと表情を真剣なものに変えて言った。
「ですから、私にも協力させてください。これは友人としても、国としても一大事なのです。原因によっては他の方にも同様のことが起きてしまうかも知れませんし」
他の方とは他の国の事なんだろうか。
だとすると、これはもう私たちだけの問題ではない。世界の問題でもあるのか。
私は少し息を呑んで、そして軽く深呼吸した。
「分かった。お願いね、菊」
「もちろんです」
仲間が増えて、心強い。しかし、一体何を調べたら……。
私が唸っていると、菊は言った。
「記憶が無くなることで一番代表的なのは、やはり頭に何かしらの強い衝撃が与えられた時でしょうか……」
「強い衝撃か……」
そんなことがあるのだろうか。
「まさか、ウォッカダイブ……」
いやいや、いくら何でもそれで記憶をなくすなんてそんなことは……。
考えを振り払うように頭をブンブン降った。
それを見ていた菊が言った。
「いえ、それも一応可能性の一つとして考えてみましょう。なにも心当たりがない限り、少しでも可能性のあるものを視野に入れるべきだと思いますよ」
「そっか……、分かった」
これが原因だという事はないと思いたい。
「他には、ありませんか?」
そう菊に言われるが、他に思い当たる節がない。
……ん?
「(兄さんにこれ以上関わるな……)」
何か小声で聞こえたような。
「ねぇ、菊。なにか今聞こえなかった?」
そう言って菊を見ると、様子がおかしいことに気がついた。
顔がとても青ざめて、歯もガチガチいっている。
「え、菊?」
呼びかけるが、菊はすごいスピードで図書室のドアへと逃げて行ってしまった。
一体何が……。
すると、奥にある本棚の影からゆらりと一つの影が現れた。
「ひっ」
その人は、とても怖い顔をしていて今にも飛びかかってきそうな勢いでこちらに走ってきた。
早すぎて逃げることができない!
「兄さんから離れろぉー!」
ドサッ。
気づくと、視界は一つの顔だけになった。