それがあなたの夢ならば
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あの日から一週間たった今日、私はあることに疑問を抱えていた。
それは、イヴァンの記憶が無くなった理由である。
「ねぇ、イヴァン。本当になんで記憶が無くなったか分からないの?」
私は、しつこいほどこの質問を繰り返した。
だが、いずれもわからないとのこと。
ならば、私が探すしかない。
ここなら何かわかるかもしれないと思って、普段はなかなか足を踏み入れることの無い図書室へと来ていた。
だが、記憶に関する本を読んでも私にはさっぱりだ。
なにせ赤点ばかりだった私だ。突然こんなことしたところで無理に決まっていたんだ。
だけど、諦めるわけにはいかない。
原因が分かったからといって特に何をするという訳では無いが、やはり私も気になるし、本人もとても気が気でないようだった。
これでは彼の新しい夢が叶えられなくなってしまう。
「加藤さんじゃないですか。珍しいですね」
後ろから話しかけられたものの、そのお硬い口調で一瞬で誰だかを判断することができた。
「菊!」
「なんだかお久しぶりですね」
そういえばそうか。
なんだかんだ言ってもう文化祭から2、3週間経っていた。
「そういえば、加藤さんは何かを探していらっしゃるのですか?」
私はハッとして、藁にもすがる思いで菊にこれまでの事を話した。
「そうだったのですか。イヴァンさんも私に言ってくだされば良かったのに」
真剣な表情でそう言う菊に、なんだか安心した。
やっぱり、イヴァンは本当に嫌われていたわけじゃないんだ。
と、そこで思い出す。
この学園には国である人がいるということを。
ここまでイヴァンのことを考えてくれるなんて、噂が消えかかっているとはいえまだ避け続けている一般生徒では有り得ないかもしれない、と珍しく頭が働いたのかそんな考えにたどりついた。
こんな所で働いて必要なところで働かないなんて我ながらポンコツ頭……。
「ところでさ、菊って、その……」
問いかけようとするも、どうにも聞きづらく口ごもってしまう。
その様子に菊は頭に『?』を浮かべていたようだが、次第に言いたい事を察したのか彼は微笑んで言った。
「えぇ。私は確かにあなたが思っているような存在ですよ。少し、耳を貸して頂けますか?」
私は少しきょとんとすると、続けて言う。
「ここで聞かれては、騒ぎになるかもしれませんから」
あぁ、と頷き私は耳を寄せた。
すると、菊は言った。
「私は、確かに『国』です。あなたの生まれ育った、日本と申します。今後ともよろしくお願い致します」