The secret of midnight

□止められない二人
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視線の先、街灯の下で尊敬の念を抱く男に笑顔を見せて楽しそうに笑う名の姿がある。
――...随分楽しそうに...
ステアリングにかけていた手を下ろし、愛用のライターで煙草に火でつける。
名はこちらへチラチラと視線と送っている。
堂島がその様子に気がつくと片手を上げた。
向こう側から見えるかどうかは気に留めず頭を下げる。
―いつまでそうしているつもりだ...。
ゆっくりと紫煙を吐き出す。
腰の辺りで切り替えになった品のあるボルドーと黒のタイトなワンピースを身に纏った名の膝下から下へと視線を滑らせる。
少し光沢のあるストッキングを履いて、足元には少しヒールの高い艶やかなパテントのパンプスがある。
丸みを帯びた彼女の臀部に目をやって、煙草を揉み消した。
―...焦らされている気分だな。
当人にその意識は毛頭ない事は分かっていた。
今ここからは見えないデコルテ部分の開きが少し大きいのが気になった。
食事をしている時なら席についている為さほど気にはならなかったが、今あの状態で堂島が名を見下ろせば多少胸元が見えるのではないかと危惧した。
「...はっ...、あぁ..。」
―早く触らせてくれ。
幸い車の近くには街灯もなく暗がりになっているのをいいことに、スラックスのファスナーを下げて下着へと手を入れた。
近頃、淫魔に取り憑かれたように彼女の姿を目にすると淫らな欲望が抑えられない状態にある。
今もこうして名が上司と話しているの見て、彼女が他の男に犯されているのを想像しながら自らを慰めている。
「あ、はぁ...。」
―誘われでもしてるのか?
想像通りのような事が実際に起こったらそれこそ地獄だ。
自分がどうなってしまうのか責任が持てそうにない。
「はぁ、あ、ぁ...名...、早く...。」
もどかしくなり下着から硬さを持ち始めた自身を露出させる。
車中とはいえ屋外だ。
スリルと淫靡な妄想に興奮してしまう。
―とんでもない変態だ...。
そう思いつつも随分と大きさを変えてきた自身を早く名に見せつけたい衝動にも駆られている。
「名...。はぁ、...早く、触ってくれ...。」
漸く話が終わったのか彼女がこちらへと向き直り歩を進めた。
安堵のため息と期待に顔がほころぶ。
それと同じくして彼女の後から堂島がやってくるのが見えた。
慌てて後に放り投げていたコートをかけた。
これが夏場ならその変態ぶりをまざまざと上司に見せつけてしまっていた事だろう。
「ごめんなさい。...遅くなって...。」
彼女は車に乗り込みながらそう言ったが、彼女の顔は訝しんでいるように見える。
この暗がりだ。紅潮した顔を見られたわけではあるまい。
「暖房効かせてるのに、寒いの...?」
彼女は意地悪そうな顔つきで聞いてきてコートをかけたその中心を優しく撫で回した。
「...っ...名...。」
上擦った声が漏れてしまって口を噤む。
「峯、悪かったな。話し込んでしまって。」
堂島がドアの外に立ち、彼女が開け放った窓から顔を覗かせて言った。
「いえ...。」
平静を装いながら声のトーンを落ち着かせて答えた。
「今度、弥生さんがお友達と旅行に行くんですって。」
「どこかおすすめの宿はないか名さんに聞いていたんだよ。彼女の専門分野だろ、そういうのは。」
旅行会社に務める彼女なら確かにいい宿を紹介出来るだろう。
「そうでしたか。いい提案が出来そうですか?」
「そうだな。幾つか教えて貰った所を勧めてみるよ。」
堂島は満足げに微笑んだ。
おおらかな人柄が表情に出ているのがよく分かる優しい笑みだ。
「引き止めて悪かったな。また三人で飯を食おう。名さんも、ありがとう。」
「こちらこそ。それでは、また...。おやすみなさい。」
二人で堂島に会釈をして去っていく姿を見送ると名がこちらに視線を向けて耳元に唇を近づけた。
そしてコートの中に手を入れて優しい手つきで俺の自身に手を添えた。
「もう...、こんなになってる。」
その囁きに背筋がぶるっと震えた。
「...大吾さんと、随分楽しそうにしてるの見てたら我慢が出来なくなった。」
名は嬉しそうに笑ってから俺の頬に手を添えて優しく口付けた。
そっと離された唇の間から聞こえて来た言葉に一層自身を昂らせてしまう。
「私も...、早く二人きりになりたかったの。」
そっと俺の手を取り自分のスカートの中へと手を忍ばせながら彼女はまた口付けを落とす。
ストッキング越しに彼女の中心に触れるといつもと違う感触に目を薄く開くと彼女の震える睫毛が見えた。
ひとしきりその感触を味わってから唇を離した。
「...下着、どうしたんだ?」
ストッキングを直に身につけた彼女の陰部はしっとりと湿っていた。
「さっきお店で...お手洗いに行った時に、この後の事考えたら我慢出来なくって脱いで来ちゃったの。」
答えと行動が一致していない、と感じた。
「...早く、峯さんに触ってほしかったの。」
流石にストッキングを脱いで来たら変に思われると感じたのだろうか。
伝線したと言えばいい気もするが、こんな夜にそもそも男がそんな所を気にするとも思えなかった。
そしてひとつの納得のいく答えを見つけた気がすると思わず口元が緩んだ。
「...好きでしょ...?こういうの。」
似たもの同士、少し倒錯気味の性癖を持った自分達は、今夜も気が済むまでお互いを求め合っていつものように夜の短さを恨むのだろう。
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