The secret of midnight

□Menophilia
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広々としたアイランドキッチンに立ち、食後の片付けをするべく名がエプロンを首から通した後の事だった。
「コーヒー、飲むだろ?」
彼女の背後で峯が食後のコーヒーを用意しながら言った。
「じゃあ、ミルクは多めで。」
名が彼にそう伝えると、エプロンが彼女の体にぴったりと密着した。
リボンの端を峯が握って名の肩口から声をかけた。
「結んでやる。」
名が少しだけ姿勢を正すと、峯はゆっくりとした手つきでリボンを結び始めた。
左手で作った輪に右手に持ったリボンを巻き付けながら彼女の臀部へと視線を送った。
そして深く鼻から息を吸い込んだ。
「出来た?」
峯はその声に顔を上げて輪にしたリボンの左右をグッと引っ張り形を整えた。
「...ああ。慣れてないと案外蝶結びも難しいものだな。」
「適当でいいのに。」
指先でリボンの形を整えながら、名は背後からの視線をうっすらと感じ取って顔を赤らめた。
峯はコーヒーカップを二つカウンターに置いてから彼女の臀部に張り付くジーンズに視線をやった。
名は少し重たく感じる腹部を撫でて目の前で流れ落ちる水の中に手を潜らせた。


二時間ほどの映画を流し終えた大きなスクリーンはエンドロールが下から上へとスクロールしていた。
「もう一本観る?」
名が峯に提案すると、目頭を抑えている彼の姿があった。
「疲れた?他のはまた今度にしよっか。」
名はブルーレイを停止させて立ち上がった。
ジーンズに包まれた尻の辺りを気にしながら手で整えるような仕草をしたのを峯は見逃さなかった。
そして横目で彼女が向かった先を追う。
微かにドアの閉まる音が廊下の先で聞こえた。
ソファ脇の彼女のバッグの口が開いたまま置かれている。
峯は入口から中を覗き込んで、ソファの上、名が腰を下ろしていた部分に手を乗せた。
ほのかに残る体温を感じてから、彼は立ち上がり静かに廊下を進んだ。
名が消えたその向こうへ意識を集中させると、カラカラと音が聞こえてくる。
峯は自分と彼女を隔てるドアにそっと耳をつけて息を殺した。
カサカサと包み紙を剥ぐ音がして、峯は確信を得て来た道を戻った。
そしてまた何事もなかったようにソファに腰を下ろして二つ並んだブルーレイディスクのパッケージを眺めた。
「もう一本観ようか?どっちがいい?」
部屋に入ってきた名が峯に声をかけ、冷えたグラスと缶ビールを持って彼の隣に座った。
そしてビールをグラスに注いでから両手にパッケージを持って悩んだ。
「好きなのにしたらいい。」
綺麗に泡の乗ったビールをそのままに峯は腰を上げると廊下へと続くドアを開けた。


個室のドアを閉めて鍵をかけると、峯は便座の蓋を開け、便器の中の薄く残る赤い筋を見て笑みを零した。
用を足すと、傍らに鎮座するボックスへと視線を移して、降ろした便座の蓋へと腰をかけた。
名が家へ来るようになってから彼女の私物も少しずつ増えていき、殺風景だった部屋にほんの少しだけ生活感が生まれた。
トイレの中のサニタリーボックスは彼女が設置した物だった。
峯はサニタリーボックスの蓋に指を引っ掛け軽く持ち上げると、中からムッとした匂いがした気がしてはやる気持ちを抑えつつ、その中に収められている物へと触れた。
そしてそれをボックスの中から取り出して手のひらで包み込んだ。
彼女の体から出た物が熱をもってそこに存在している事に彼は興奮していた。
ペーパーの端を摘み、包みを解いていく。
彼女がいる部屋からは恐らく聞こえるとも思えないが、彼の手つきは慎重だった。
外装を床へと落とすと、中から出てきた物は折りたたまれていた。
また彼は大きく息を吸い込んだ。
生臭い血の匂いが鼻腔を擽った。
ボックスには冷えたもうひとつの塊があったが、彼はそれには手をつけず今しがた彼女が残していったものだけを手に乗せて眺めた。
3時間程の水分を含んだそれは少し重みを感じた。
覆い隠された部分を確認すべく、彼が折りたたまれた端を引くと意外と密着している事に気づいて一旦そこで動きを止めた。
次に強めに引っ張るとビリッと音がして彼は顔を強ばらせた。
手に持ったそれは少し破けてしまったが、目に映し出された鮮血に彼は恍惚とした表情を浮かべていた。
「はぁ...、は...。」
その血液の量と、流しきれなかった経血の跡から恐らく二日目辺りだろうと彼は思った。
白いキャンバスに染みた経血は鮮やかな色をしていてとても美しいと峯は感じていた。
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