The secret of midnight

□共謀者ーSecret of midnightー
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薄く開けたドアの向こう、暗がりの中に彼女の体のラインがベッドサイドの弱い灯りにぼんやりと浮かび上がっている。
名の体が上下に揺れて、切なげな甘い吐息が漏れた。
峯は、息を殺してその様子を眺めた。
階下を気にしながらも、そっと自分の熱くなった自身をスラックスの上から撫でて名の喘ぎに耳を澄ませた。
「峯さん...」
その声に峯の体が波打って、彼は自身へとやっていた手を止め早くなる鼓動を抑えるように深く息を吸いこんだ。
――――


長引いた仕事の後に、食事がてら居酒屋へと峯を誘った彼の二つ歳上の同僚である姓は、新居を建ててまだ間もなかった。
「この後、家で飲まないか。」
そう言われ、翌日に休日を控えた峯は特に断る理由もないままに誘いに乗る事にした。

コンビニで安酒とつまみを買い込んで真新しい家のドアを姓が開けた。
「おかえりなさい。」
気配を感じて、姓の妻である名がリビングから出てきて二人を出迎えた。
「どうぞ上がって下さい。」
ワイドパンツとカットソーを着た名は夜の10時を過ぎた時間にも関わらず、まだ化粧の施された顔のままで峯に促した。
「すみません、突然お邪魔して。」
峯が深々と頭を下げていると、姓はそれに構うことなくコンビニ袋を名に手渡し早々とリビングへと消えていった。
「いえいえ。主人から連絡を貰ってますし、突然だなんて...。それより、なんのお構いも出来なくてごめんなさい。」
コンビニ袋から覗く乾きもののパッケージを見て申し訳なさげにする名を見て、峯は手を振った。
「全然ですよ。そんな事気にしないで下さい。」
「すみません。」
出されたスリッパに足を通しているさなか、峯は名から放たれる柔らかいコロンの香りに顔を赤くした。
彼の脱いだ靴の向きを背後で直している名の緩く纏め上げられた髪のひと房が、湿り気を帯びて項に張り付いているのを峯は横目で捉えた。
「どうかしましたか?」
顔を上げた名は微かに瞳を揺らめかせて峯を見上げた。
「いえ...、お邪魔します。」
峯は何事もなかったように笑顔を作ると、促されるままにリビングへと名の後へ続いた。

二十畳程のリビングにはL字に置かれた大きなソファと木目の美しいアンティークのテーブルが一際目立っていた。
昼間は燦々と暖かい陽が差し込むカウンタータイプの窓際には青々とした葉をいくつも付けた観葉植物が置かれている。
「いいですね。新築って感じがして。
広いし…、窓が大きいから昼間は明るそうだ。置かれている家具もセンスがいい物ばかりですね。」
峯が姓の斜向かいに腰を下ろしながら言うと、照れくさそうに笑った姓が缶チューハイのプルトップを開けた。
「ローンが怖いよ。30年か...頑張って働かないとな...。ほんと、病気なんかしてられないよな。」
先を考えれば思いやられるだろうが、財産として残る物を手に入れた姓はどこか誇らしげに峯の目には写った。
「頂き物ですけど、良かったらツマミの足しにでもして下さい。」
名の声と共にテーブルへと置かれた皿には色々な種類のチーズが盛られていた。
「ありがとうございます。...名さんもどうですか。」
峯がアルコールを促すと名は窺うような視線を夫である姓に向けた。
姓が小さく頷くと、名は彼の隣に腰を下ろして発泡酒の缶を手に取った。
「それじゃぁ、遠慮なく...。それにしても、随分たくさん買ってきたのね。」
名がテーブルに並べられた酒とツマミを眺めながら言った。
「あれもこれもとやってるうちに買い込んでしまったな。」
赤ら顔になった姓が鼻で笑った。
名は呆れたような顔をしながらもつられて笑顔を零すとドライカルパスの包みを開けた。
「今日は仕事だったんですか。」
ふと思い立って峯が名に尋ねた。
「ええ。実は、私も仕事上がりにお友達と食事をしてきたんです。」
「ああ、そうなんですか。」
遅い時間に関わらず、どこかしら小綺麗にしている彼女に納得がいったように峯は頷いた。
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