short 鬼滅

□ばれんたいんでぇと
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一応ハロウィン、クリスマスのお話と繋がってる設定です。が、そちらを読まなくても読めるようになってます!
少し遅れましたが……Happy Valentine♡










にぼしと恋仲になってから、一箇月あまり経った今日は、2月の14日だ。



御館様に呼ばれた帰り道、
"お腹が空いたなぁ…大衆食堂にでも行こうかなぁ"
なんて考えていると、誰かが僕を呼ぶ声がした。







「むいくーん!!!」




振り向くと、手を振りながら近づくにぼしが、その勢いのまま僕の胸に飛び込んできた。
それを難なく受け止める僕に、嬉しそうに笑う。







「にぼし、どうかしたの?」



「今日の宵って、任務?」



「今日は非番だけど……」



「じゃあ私と "でぇと" しようよ!」



「また、訳分からない単語……誰に聞いてきたの」



「へへ、蜜璃ちゃん! "でぇと" って、好きな人と2人きりでお出かけするんだって」





そう言ってニッと笑う彼女は、なんとも愛らしい。





「蜜璃ちゃんも伊黒さんと、でぇとなんだって!」



「ふぅん……あの二人もはっきりしないよね」



「でも、あの位の距離感もいいよねぇ」



「そう?」





なんて話しながらにぼしに手を引かれるままに歩き出す。





「あの、私お腹が空いちゃったから食堂行っても良いかな!」


「うん、僕も今行こうと思ってたから」





食堂に着いてからも、色々な話をした。
基本的に次々と話すのはにぼしで、僕は相槌を打って返事をしたりする位だけど、彼女は楽しそうだ。





「美味しかったね!
むいくん、この後どうしようか」



「どうする? 家でゆっくりする?」



「うん、そうしよっか!むいくんの家?」



「うん、良いよ。
……いや、やっぱりにぼしの家行こう」



「え、うん? 珍しいね」






僕がにぼしの家を選んだことに、吃驚したような表情をする。





「たまには良いでしょ」


「う、ん!」




少し吃ったような返事に、何かあるのかと気になったが何も聞かず、歩き出したにぼしの隣に並んだ。




家に着いた頃、口数が少なくなっていたにぼしがおずおずと口を開いた。





「……あ、あの」


「さっきから黙ってどうかしたの?」



「私の家って言うと思わなくて…ちょっと台所が、すごく散らかっててね!」



「そんなこと…別に気にしないよ」



「あの…言い訳じゃないけど、いつもはそんなに散らかしてないのよ!」



「わかってるよ」




ふっと笑うと安心したような顔をする。
家の中に入ると、何だかすごく甘ったるい匂いがした。





「にぼし、これなんの匂い?」


「……」



チラリ、と僕を見て観念したように口を開いた。




「今日ね、"ばれんたいん"っていう、好きな人にお菓子を渡す日らしくて……どうしてもむいくんに、ちょこれいとけぇき作りたくて」



「ちょこれいとって、あの "はろうぃん" の時の甘いやつだよね」



「……覚えてたの?」



「うん、忘れてないよ。美味しかったし」



「そ、っか…」




心底嬉しそうに口角を上げる、僕の好きな表情だ。にぼしはいつだって不意に、僕を喜ばせる。だから僕は彼女から離れられないのだ。






「とりあえず、中にどうぞ!」


「うん、お邪魔します」






家に入り、居間の座布団に座っていると目の前のちゃぶ台にコトリ、と遠慮がちにお皿に乗ったけぇきが置かれた。






「むいくんのお口に合うか、わからないけど……」



「いただきます……うわ、おいしい……」





思わず漏れた僕の声に、にぼしがまた嬉しそうに笑って僕の向かいに座った。






「良かった……!
むいくんにね、いっぱい愛を込めて作ったの!」



「そっか、ありがとう。じゃあ今僕はにぼしの愛を独り占めしてるんだね」






僕の言葉を聞いて、照れたように何度も頷く。






「僕、にぼしにいつも貰ってばかりで何も返せてないけど……誰よりもキミのこと想ってる、と思う」



「ううん、いいの!私がしたくてしてる事だから……でも、そう言って貰えて嬉しい!ありがとう」


「にぼしが嫌じゃなければだけど……一緒に住まない?」



「…………へ?」





パクリ、けぇきを口に運ぶ僕をキョトンとした顔で見るにぼし。もう一度同じことを言って見ると、みるみるうちにその頬が赤く染っていく。




「……それって、あの」



「許婚として。まだ婚姻出来る歳じゃないけど、せめて一緒に住めたらなぁって」



「っ……あ、の、むいくんが私で良いのなら…喜んで」



「うん、にぼしがいい。
というかにぼしじゃないなら要らないよ」




よろしくね、と手を差し出すと隣に移動してきたにぼしの涙で濡れた瞳が弧を描く。






「こちらこそ、不束者ですが……」



「僕が生きている限り、幸せにするから」



「私も、むいくんを幸せにしたい」





ぎゅっと抱き締めて口付けを落とすと、自分か彼女か、どちらからとも無く ちょこれいとの甘い香りがした。






ばれんたいんでぇと



(( これから先、ちょこれいとの甘い香りがしたら
いつだってこの日を思い出すのだろう ))

( 何があってもにぼしを愛すって約束する )
( 私も…むいくんだけ、愛します )






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