奇跡

□楽しいお話
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▼おとぎ話



 おとぎ話には、必死に練習して、認められる人は、いつか外に出られると書いてありました。
 確実に練習しようとすれば、幸せになることが出来ると。

なんて幸せなことなんだろう。右肩を痛めたおじいさんも、窓の外から努力だよと言っていた。
だから、いつも頑張ったのです。


私たちは、生きていますか?
死んでいますか?
外に出られるなら苦しまないでしょう。

 おじいさんが、雨や雪の冷たさに身体を震わせる光景すらも少女には羨ましく映りました。
外の空気がわかりません。
おじいさんは右肩をいつも気にする以外はいい人でしたし、世の中の才能も努力なんだよと教えてくれました。
足が速くても転びやすいなら意味はありません。確実に前に進むから、その努力があって、才能なのです。
才能だけでは、ただの個性に過ぎません。



 ベッドに腰かけたまま窓を眺めていると、いろんな景色が見えます。
少女はそれを描きながら、雨は甘いだろうか。
冷たいだろうか。
そんなことを想います。
ただ傘を差す群れには、雨は雨でしかないことには、これはここに縛られた子たちの特権なのかもしれませんが。

努力と、義務を守れば幸せになれるって言っていたよ。少女は首を傾げ短めの髪の少女に聞きました。
彼女はあきれたように笑います。

 それは生きる才能のある人間、人と認められた人間のことだよ。

 ならば、此処は努力と、義務を守っても何の役にもたたない世界だったんだねと、返しました。

「だけど、彼らが人と認めないのに、混ざっても意味はないさ。

狭い世界のなかでなら少しは幸せだよ。
仲間なんて、外じゃむつかしいからね。
彼らのいる窓の外は、雨がただ降るだけだ。きっと味気ないものを見るだろう」
少し前に来た左足がいたいおばあさんも言うのを思いだしました。
「努力は報われなくては、いけないのです」


特権だけを手に、窓を眺めるのみです。

2019/02/11 19:45
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