奇跡

□メモ帳
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統計的には、少し多めの色覚センサーを持っているのは女性に多いと言われるようなのだが、さっきも言ったように、ぼくは細かくは知らない。

ただ、髪色を見て、例えば同じような茶髪でもオレンジや黄色も見えているなとか、緑も見えるなと考えることがある人もいるんじゃないだろうか。
そして見えているほどに、
『何色』と、パッと一言で表現するのが、難しい。
単色を、単色と認識するのが微妙に難しくなる。



そいつは、嘘をつかなかった。
そうやって見えていて、そうやって、見える世界を、たった一人眺めて、生きてきただけだった。別になにか間違っていたわけではない。
だから、何を言われても、気にしないで「そんなこともわからないのか!」と、憤慨し、見下してしまえば良かったのに。
または。
ぼくみたいに全て諦めて、他人の理解なんか捨てちゃえば、良かったのに。
そうしたら、まだ、マシだったろうに。

そいつは──愚かなぼくよりも、何倍も強かったのだろう。


どちらもしなかった。


だから。
みんなが下した判断は、隔離だった。
狂っていたのは、常識の方なのに。


 それがただの妄想や虚言ではないことを、ぼくは知っていたけれど、みんなは誰一人、信じて居なかった。




 そうして病室に閉じ込められたそいつは、ある日、言った。
優しい目で。
温かな声で。


ふふ、と笑って。
楽しそうに、言った。
「三角形が、襲撃します」
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