短い恋のお話。

□涙の後は(3部承太郎)
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ギギ…

と屋上への重いドアを開く

風に乗って香るタバコの匂い

いつも思うけど、これでよく先生に見つからないものだ。



『 承太郎くーん…』



いるのはわかっている

無視したってムダだ

いつもの角を曲がった所…



『 …やっぱりいた。』

「…何の用だ。」

『んー、実はこれと言って用はないんだけどね!』

「…」

『たまには私だってサボりたい時くらいあるんだよ。』



雲の浮かぶ青空を見上げる



「…俺は教室に戻るぞ。」

『えっ、ウソ!』

「本当だ。」



立ち上がって制服のズボンをはたいて、帽子を深くかぶりなおす承太郎くん。

私はその仕草に見とれる。



「…何だ。」

『…もう…どっか行ったりしないでね。』



数ヶ月前、ちょっと留守にする、心配するな、って言って

2ヶ月も帰って来なかった。

いろいろ聞きたい。

どこへ何をしに行ってたのか、とか、いろいろ。

でも、私はそんなこと聞ける立場じゃないし…



「…」

『…ほらっ、教室戻るんでしょ?! 早くしないとチャイム鳴っちゃうよ!』

「…やれやれだぜ。」



そう言ってまた元の場所に座る



『戻らないの?』

「…誰かさんが泣きそうな顔しているからな。」

『誰かさんって…』

「留年したらてめぇのせいだ。」

『…人のせいにしないでっ』



承太郎くんはもう一度帽子のツバをぐっと下げて



「…悪かった。」

『え?』

「…寂しくさせて…悪かったな。」

『…っ』



胸が苦しくて涙が出そうになる



「…好きな女に泣かれたらどうしたらいいかわからねぇ。」



堪えていた涙はボロボロと零れ落ちて

承太郎くんの大きな手は私の頭をくしゃくしゃと撫でた



「だから、泣くなと言っただろうが。」

『無理だよぉ…』



承太郎くんの制服の鎖がチャリッと音を立てて

ふわっと甘い香りに包まれた



「しょうがないヤツだな…」



涙が止まるまで抱きしめてくれた後は、私の真っ赤な目を見て



「…ヒドイ顔だな。」



とちょっと笑って

小さなキスをくれた。


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