短い恋のお話。

□初めての恋は(億泰)
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今朝も仗助への黄色い声をあびながら通学。

俺も一度でいいからキャーキャー言われてみてぇもんだぜ。

億「仗助よぉ、おめぇこんなにモテんのに彼女作んねぇのか?」

仗「別に今は欲しいと思わねーな。心底好きな子がいるわけじゃねーし、お前らとつるんでるのも楽しいしな〜、なんだかんだ。」

億「…モテるから恋愛に焦ってねぇヤツのセリフだな、ムカつくぜちきしょう…」

そりゃあ仗助や康一とつるむのは楽しい
何でも本音で話せるヤツらだし

けど康一と由花子を見てるとやっぱり俺も…

彼女が欲しい。

億「なぁ、仗助。俺、おめぇに言ってねぇ事があんだけどよぉ…」

仗「ん?何だよ、かしこまってよぉ。」

億「俺よ…好きな子がいるんだ。」

仗「へぇ。………って、えぇ!?おっ億泰に好きな子!?マジかよ!?」

億「んな驚く事ねぇだろうがよ!」

仗「だっ、誰なんだよ!ガッコの子か!?」

億「お、おぅ。」

仗助に同じクラスの子だと教えると

きゃー!仗助くん!今日もかっこいいー!

とか言われながら教室を見回す

仗「どれだ…」

『虹村くん、おはよう。』

億「おぅ。」

『今日は虹村くん日直だよ。』

億「げ、マジかよ〜めんどいな〜」

仗助に「この子だ」と目配せする

仗「億泰…こういうの、高嶺の花っていうんだぜ…」







昼休み

仗「億泰、勇気あるな。」

億「あぁ?」

仗「初めての恋にしちゃあハードル高すぎねぇか?」

康一「恋!?億泰くんが!?」

仗「そう、同じクラスの…誰だっけ?」

億「名前だよ。」

仗「まぁ頑張れよ。お前、性格はいいからよ。」

億「…褒められてる気がしねぇ。」

康一「うまくいくといいねー!」

億「ん〜、っつーかよぉ、俺は別に告白とかするつもりねぇし…」

康一「えっ何で!」

億「あいつはかわいいだろ〜、とても俺なんか釣り合わねぇよ。」

仗「…」







『東方くん』

仗「ん?あ、億泰の…っとやべ!
えっと、名前だっけ?」

『うん、あのね、教えて欲しいことがあって…』

仗「?」



億「ん?」

ありゃあ名前と仗助じゃあねぇか

何話してんだ?

…それにしても…

美男美女で似合ってるな…

やっぱ俺は無理だなぁ

仗助の半分でもいいからカッコよく生まれたかったぜ…







仗「よぉ、億泰〜。」

次の日

億「なんだよ〜ニヤニヤして気持ち悪ぃなぁ。」

ニヤニヤしながら俺の肩に肘を置く仗助

仗「いや、なかなかお前やるじゃんかよぉ」

億「はぁ!?意味わかんねぇし!」

仗「いやいや、お前は何も気にしなくていいから。ま、名前の事、頑張れよ〜。」

何なんだよ仗助のヤツ。

教室の自分の机のイスに座ると

『虹村くん。』

億「ん?」

『今日、放課後用がなかったら…教室に残ってて?』

億「用なんか別にねぇからいいけど…どうしたよ?」

『うん、後で話すから。じゃあ、よろしくね。』

名前はにっこり笑って席についた

見てるだけでドキドキする
黒板を見る横顔
シャーペンを顎にあてて考える仕草
髪を耳にかける仕草
センコーのつまらない冗談に笑う声
…こんなに好きなのに
誰かのものになっちまうのかな…

ため息をついて窓の外を見た
そんな俺を名前が見ていたのなんか知らずに。








そして放課後

『ごめんね、時間取らせて…』

誰もいなくなった教室

億「いや、大丈夫だ。んで、話ってなんだ?」

これまでの人生、告白とは無縁だった俺は
まさかこの流れが、空気が
告白だとか気がつきもしないで

『あのね…私…虹村くんのこと…』

億「………え?」

嬉しかった
このまま空を飛べそうなくらい嬉しかった

でも同時に頭をよぎったのは
こないだ見た仗助と名前の姿だった

億「………すげぇ嬉しいんだけどよ…俺は名前には釣り合わねぇよ。名前にはもっと…例えば仗助みたいにかっこいい男と…」

『私は…虹村くんが好きなの。他の誰でもない、虹村くんが…』

億「………ごめんな…」






帰り道
何も考えられずにただ歩きまわった
ぐるぐる遠回りして家の近くまで来ると

仗「億泰!」

億「仗助…」

仗「どうだった!?おめでとうか!?…って顔じゃあねぇな…」

億「………」

仗「…告白されたんじゃねぇのか?名前に。」

億「…あぁ、されたよ。」

仗「ならなんでそんな暗い顔してんだ?」

億「………断った。」

仗「は?何で!てめぇ名前の事好きなんだろ!?」

億「好きだからだよ!好きだから、こんな見てくれの俺なんかといたら、名前が恥ずかしいんじゃねぇかと思って!」

仗「…てめぇはバカだとは思ってたがここまでバカだったとはな。」

億「なんだと!?」

仗「こないだよぉ、名前と話したんだよ。名前が、億泰の事何でもいいから教えてくれって言うから。そん時、聞いたんだ。億泰のどこが好きなのか、ってよぉ。」

仗助が俺に近づきながら話す

仗「最初は、億泰は目つきも悪いし歩き方も威圧的だし、怖いヤツだと思ってたって。けど、半年くらい前に、歩道橋に登れなくて困ってたばぁさんをおぶってやってるお前を見たんだってよ。それから、お前はほんとは優しいヤツなんじゃねぇか、って思って、次の日に思い切って「おはよう」って挨拶したら、すげー笑顔で「おぅ、おはよう!」って言ってくれたって。それで惚れたんだっつってたぜ。」

億「………」

仗「釣り合う、釣り合わねぇとか関係ねぇだろ。名前はてめぇの性根に惚れたんだ。てめぇが名前を好きで、名前がてめぇを好きなら誰にも何も言う資格なんてねぇよ。」

億「仗助…」

仗「早く名前んとこ行ってやれよ。ぜってー泣いてるぜ。」

億「仗助、ありがとよ。」

仗「いいから早く行け!」

億「お、おう!………どこ行きゃいいんだ!?」

仗「………やっぱてめぇは大バカだぜ!」

それからいろんなヤツに聞いて回って名前の家はわかったけど、まだ帰ってなくて
家の周りを探し歩いた

そして、小さな公園で名前を見つけた。

『…ぐすっ』

億「……名前。」

『…虹村くん…』

億「さっきは…悪かったな。」

『…』

億「俺の…ほんとの気持ちを伝えに来た。…俺、名前が好きだ。」

『え…?』

億「俺と付き合ってくれ!」

声を上げて泣き出した名前が俺に抱きついてきて
そんなこと経験なかった俺は自分の手のやり場に困ったが
名前がすごく愛おしく思えて
背中にそっと手を回して抱きしめた。







そして次の日の朝

いつものように仗助に向けられる黄色い声と
俺たちの後ろに名前がいる事へのざわめき
みんな口々に「仗助狙いか」とか「抜けがけた」とか言ってる
名前は困った顔をしていた

億「…ほらよ。」

俺が左手を差し出すと

『うん!』

名前は笑顔で俺の手を握った。

みんながざわざわ何か言ってるけど俺はもう気にしねぇ
男は中身で勝負だ
深いとこで名前に釣り合う男になってやるぜ。


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