■□■
【おまじない】

晴れた春の空。
穏やかな陽射しが教室内に降り注ぐ。
昼休み時間に降谷はとある空き教室に詰まれた机の陰で壁に背を預け眠っている。
開けられた窓から入る心地良い風がクリーム色のカーテンと降谷の髪を優しく撫でた。
規則正しい寝息を立てて眠る降谷をひとりの少女がどうしたものかと見つめる。
少女は降谷の親友である諸伏から彼を起こして来て欲しいと頼まれてここにやって来たが、あまりにも気持ち良さそうに眠る降谷の姿を見て声をかけるタイミングを失っていた。
降谷に対して淡い恋心を抱く少女は少し考えたのち、彼から少し離れた場所へと腰を落とし、すやすやと眠る降谷の顔を盗み見した。
特徴的な黄金色の髪、長い睫毛、薄く開いた唇。
少女は胸の高鳴りを抑えながら抱えた膝に顔をうずめた。

『(…降谷くん…かっこいいなぁ…。)』

心の中でそう呟き、もう一度眠る降谷へと瞳を向ける。
そこには変わらず寝息を立てて眠る降谷の姿があったが、黄金色の髪に小さな桜の花びらが舞い降りている事に少女は気付いた。
春の風とともに迷い込んで来た花びらがゆらゆらと揺れている。
その花びらを見ていた少女はふと友達が話していたおまじないを思い出した。
それは【桜の花びらが地面に落ちる前にキャッチする事が出来たら好きな人と両思いになれる】と言うものだった。
その話を聞いた時は、軽い気持ちで聞いていた少女だったが、目の前に好意を寄せている降谷と今にも降谷の髪から舞い落ちそうな桜の花びら。
少女は床におろしていた腰をあげ、そっと降谷に近付き、ゆらゆらと揺れる桜の花びらへと集中した。
その時、窓から少し強めの風が舞い込み、カーテンが舞い上がる。
それと同時に降谷の黄金色の髪と桜の花びらがふわりと舞い上がった。

『あ…!』

少女は慌てて舞い上がった桜の花びらを目で追う。
そしてふわりふわりと少女の目の前に舞い降りる桜の花びらをそっと両手で包み込んだ。
地面に落とす事なく桜の花びらをキャッチする事が出来た安堵から小さなため息がこぼれる。
少女はその桜の花びらをまるで壊れ物を扱うようにしながら降谷へと視線を向けた。

バチッ…!

まるで電流が走ったような感覚が少女の身体を駆け抜けた。
先程まで気持ち良さそうに寝ていた降谷がしっかりと瞳を開けてこちらを見ている。
目が合って数十秒、何か喋らなくてはと少女は口をパクパクさせるが言葉が出て来ない。
そんな少女の姿が面白かったのか降谷が小さく吹き出した。

「慌てすぎ。」

そう言って笑う降谷につられ、少女も笑う。

「それ、桜の花びらか?」

少女の手の中を覗き込み、降谷がそう囁く。
自ずと縮まった距離に再び少女の鼓動の速さが増した。

『う、うん。』

「なんかあるのか?」

そう降谷に問われたが、少女には好意を向けている相手におまじないの事を話す勇気がない。
少女は少し考え、『地面に落ちる前に花びらをキャッチするといい事がある』と説明した。

「へぇー、おまじないってやつか?」

不思議そうに桜の花びらを見つめていた降谷だったが少女の方へと顔をあげると笑みを浮かべ、「あるといいな、いい事。」と呟いた。

■□■


いつも拍手・コメントありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。


二度、恋シリーズなど、作品の感想やコメントを頂けてると嬉しいです。



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ