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□赤葦さんの場合
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2年に進級したばかりの4月。うちの学校では、早々に他校との練習試合が行われる。
他校との交流がまめに行われるのは、技術向上の面でいい影響を及ぼす。おまけに、4月は新1年生が加わる初めての場となる。全国で戦う相手の戦力を知るいい場というわけだ。
今回対戦するのは、都立音駒高校。コーチからそれを聞き、俺の中に真っ先に浮かんだのは、意外にもあの子の存在だった。
中学2年の夏休み、バレー部の練習を覗き見していた謎の下級生。
「また来てたんだ」
「こんにちは、赤葦先輩」
会うたびに丁寧に挨拶をする礼儀正しいその子――蜜森とは、夏休み明け以降は昼休みを共に過ごすのが日課になりつつあった。教室や部室はうるさいから、なんてもっともらしい言い訳をして。
バレーがしたい。やるのではなく、そばでずっと見ていたい。応援したい。公式の大会だけではなく、普段の練習でも。
そんなことを言う人は初めてだったから、新鮮で、少し興味をひかれたのだ。まさかマネージャーをやりたいなどと言い出すとは思わなかったけれど。
そうして、あっという間に卒業式の日を迎える。人の波をかきわけて必死にこちらへやってきた蜜森が面白くて、少しだけ笑ってしまった。
「赤葦先輩。卒業おめでとうございます」
もうお昼休みに一緒にいられなくなるのが残念です、と付け足して寂しそうな顔で見つめてくる蜜森。ちょうどいい位置にある頭をなでた。
「蜜森がバレーの道に入るなら、きっとまたすぐに会えるよ」
「はい。楽しみにしてます」
満面の笑みを浮かべる蜜森に、俺もだよ、と告げて別れたあの日のことは、今も鮮明に覚えている。
あれからは、直接会うのは難しくなり、電話かLINEではよく近況報告などをしていた。来年度の副主将に指名されたことを話したときは、蜜森はまるで自分のことのように喜んだ。自分には荷が重いからと、固辞しようと考えていたのに。
『おめでとうございます赤葦さん(*^▽^*)応援してます』
そんなことを言われたら、断るわけにはいかないじゃないか。
バレーの道に入るのを手助けしていたつもりが、逆にいつの間にか励まされていて。あの子との関係は、どこか穏やかで心地いいものだった。また直接会える日が来たことを、純粋にありがたいと思ったのだ。
練習試合当日。
やってきた音駒の部員の中に、低身長のぼんやりした顔つきの蜜森を見つける。向こうもこちらに気づき、笑顔で手を振ってきた。
無視するわけにもいかずに振り返したけれど、蜜森はさっそく先輩に注意されているようだった。音駒の教育方針までは知らないけれど、他校生とあまり馴れ馴れしくするな、という風潮が強い可能性もなくはないから、大勢の前で話しかけるのはやめておいた方が得策だろう。
とは考えたものの、大量のタオルを抱えながら歩いて、滑って転んで鉄製の扉に激突していたのを見たときは、駆け寄って助けにいきたくてたまらなくなった。