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□木兎さんの場合
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「おい木兎お前、そんなに俺のジャンプサーブの的になりたかったの? ならそうと早く言えよ。いくらでも打ってやんよ。ほらそこ立てよ、ミミズクヘッド」
よくする悪いカンジの笑顔に似ているが、目は全然笑っていなくて。いつもとは比べ物にならないほど恐ろしい顔で近づいてきた黒尾を、冗談だ悪かった、と必死で宥めた。
こうなった原因は、音駒のマネージャーの蜜森の話を聞いたせいだった。苦しんでいた姉の力になれなかった、その悔しさをバネに、支える側としての強さを身につけたい。どこまでもまっすぐで澄みきった目で語るものだから、感極まってつい言ってしまったのだ。音駒をやめて梟谷に転校してこい、などと。
「お前んとこには2人もいんだろうが。十分だろ」
「いやー? 雀田も白福も俺らと同じ3年だからなぁ。ちょうど後継者を探してんだよ。あいつに来てもらえたらうちも安泰……だからジョーダンだって!」
黒尾がボール片手にこちらに向けてサーブを打とうと振りかぶったのを見て、慌てて止めた。当の本人である蜜森は、今は姿が見えない。赤葦がなにやら声をかけた後、すぐに外に出てしまったのだ。
それにしても、だ。人を煽るのが得意でいつもなに考えているか分からないあの黒尾が、ここまで後輩を可愛がるのは正直意外だった。俺のクロススパイクが当たりそうになったときだって、危なかったとはいえあんなに激怒するとは思わなかった。
「蜜森って、いつもあんな感じなわけ? 前の練習試合のときも思ったけど、なーんかすげー危なっかしいカンジじゃん?」
「ああ、そうだよ……なにもないところでも1日最低3回は転ぶ」
部活中に限った話だから、実際はもっとかもしれねーけど。と、黒尾は苦笑まじりに付け加え、大きなため息をついた。
なるほど。それは確かに、心配になるかもしれないな。慰めるつもりで、黒尾の肩に手を置いた。
「でも実際、木兎さんの言うとおりだと思います」
蜜森になにかの用事を言いつけていた赤葦が戻ってきた。