鬼滅小説
□弐
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鬼は、人を喰う。
その血肉を貪ることで、腹を満たし、どんな深い傷もたちどころに治してしまう。化け物という例えにこれほど相応しいものはいない。
「鬼同士が慣れ合うことはありえん。強い空腹に見舞われると共食いが起こる危険があるからだ。当然、子を生すなどあるはずがない」
おそらくは、鬼という存在を知らない、信じない者がただの例えで『鬼の子』などという言葉を使っただけだろう、と。
あの後、驚愕して固まっていた男子二人をよそに、冷静沈着を保っていた鱗滝さんがそう説明してくれた。
そうか。なるほど。鬼は実在するのか。
なんて、すんなり理解できるわけがなかった。鬼なんて、お伽噺の中に登場する架空の生き物でしかなかったのだから。
だが、油断して長い黒髪の男子と目を合わせたとき、納得せざるをえなくなった。
両親を亡くし、たった一人の大事な家族である姉を、祝言を控えて幸せいっぱいだった姉を、見たこともない大きな体、鋭い牙と爪をもった化け物――鬼に喰い殺された。視えたのは、そんな凄惨な過去だった。
「…………」
話をしているうちに日が暮れて、今日はとりあえず泊まっていけと促された。朝を迎え、一人で小屋から出て朝日を眺めていると、少しは気が晴れるような感じがした。
「やっぱお前、鬼じゃなかったんだな」
「えっ?」
声をかけられ、振り返ると錆兎がいた。少し後ろに不満げな顔をした義勇もいる。
二人には、過去を視てしまったことをきちんと詫びた。錆兎は許してくれたけれど、義勇からはなんの返事もなかった。
当たり前の反応だと思った。むしろ、すんなり受け入れてくれた錆兎の方がおかしい。かつては、目で見たものを、他に人がたくさんいる往来だろうと関係なく、その場で話してしまうという暴挙に出ていた。それを繰り返すうちに、やっと、知っても話してはいけないことがあるのだと、人には他人に知られたくないことがあるのだと気づいた。けれど、もう遅かった。
周囲は、嫌悪感丸出しの目を向けるようになり、それは血のつながった家族も同じだった。
「鬼ってさ、太陽の光が苦手なんだよ。当たると燃えて消えちまうんだってさ」
「……そうなんだ」
「おう。これでお前が鬼の子なんかじゃないって証明されたな」
錆兎は満面の笑みを浮かべ、こちらの頭に手を置いて二度ほど軽く叩いた。
証明されたとしても、なんの解決にもならない。家族はもう二度と自分を受け入れてくれることはないだろうし、拾って養ってくれるような人は果たしているかどうか。仮にいたとしても、このおぞましい能力を知ってしまえば、きっと同じように気味悪がり、捨てるだろう。
「なぁ、お前も修行するんだよな?」
「……え? 修行?」
このまま野垂れ死にするしかないのか、と考えていたのだが、思わぬ言葉が降ってきて目を丸くした。