鬼滅小説
□伍
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そして、その日はやってきた。
錆兎と義勇が十三歳、俺が十二歳になった年。
「今までよく頑張った。お前たち三人、最終選別にいくことを認める」
小屋に三人、横に並んで正座した状態で、同じく正座した鱗滝さんと向かい合っている。俺たち三人の前には、それぞれ師匠からもらった真剣が一振りずつ置かれていた。
岩を斬れ、なんて無茶苦茶なことを言われて。最初に錆兎、次に義勇。かなり時間をあけて、俺。見事に達成したときは小躍りしたけど、喜んでいる暇はなかった。
最終選別。それは、鬼殺隊に入るための試験。つまりは、鬼を倒し、人々を救うという夢の第一歩というわけだ。
「最終選別の地は、ここより三里、北北東に位置する藤襲山で行われる……ここを出た時点で試練は始まっていると思い、決して油断してはならん。よいな」
「はい!!」
気を引き締め、膝のあたりをつかみながら、三人そろって腹の底から声を出す。
最終選別とは、どういうものなのか。一人ずつ鬼と戦わされる……なんて内容だったらどうしよう、などと不安はあるけれど。それでも、合格できなければ先へは進めない。
そして、鱗滝さんは立ち上がり、戸棚からなにかを取り出して持ってきた。
「厄徐の面だ。一つ一つに厄払いの念を込めておいた。身につけていくといい」
渡されたのは、白を基調とした狐を模したお面。基本は同じ物のようだが、入れられた模様が違っていた。錆兎の面は顔に残った傷と同じ位置に傷のような模様が入っていて、義勇の面には狛犬の眉毛のような模様が入っていて、俺の面には左頬のあたりにバツ印のような模様が入っていた。
ただのバツ印ではなく、上側の先が外側に向けて伸びている。これはおそらく、長い間体力作りにと振るっていた鍬と鋤、あるいは鎌を表しているのだろう。
それぞれ特徴ある面をもらい、嬉しくなって三人で顔を見合わせる。錆兎などはさっそくつけてみていた。
「錆兎。義勇。十羽。三人とも、必ずここに帰ってくるのだぞ」
帰る。そうだ。ここは、否、ここが、俺たちの家なんだ。
鱗滝さんの言葉に、俺たち三人は再び、気持ちを込めて返事をした。
***
また、日が落ちた。
最終選別の地、藤の花が咲き誇る藤襲山に到着して、試練は始まった。内容は、生け捕りにした鬼がいるこの山で過ごし、生き残ること。
鬼を最低一人は倒せ、などという制限は設けられておらず、とにかく生き残ることが条件。非常に簡素で分かりやすい。
会場までは一緒にいた錆兎と義勇だが、試練が始まってからはばらばらになった。「固まっていると鬼に匂いで居場所を察知される危険がある」という錆兎の意見による。
「十羽、お前はとにかく隠れてろ。鬼に見つからないように、うまく呼吸を使ってやりすごすんだ」
「十羽の足なら、万が一見つかってもきっと逃げられる。無理に戦わないようにな」
最初からそのつもりだったので、わざわざ言われなくても分かってはいたが。少し過保護気味な二人の言葉を思い出し、少し笑った。一応、俺だって戦えるのに。