鬼滅小説
□陸
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あの後、俺と錆兎はうまく身を隠して腕の鬼から逃れ、期日の七日を過ごすことに成功した。元の場所に戻ると、額をケガしてはいたが、無事な様子の義勇とも合流。三人そろって合格をもぎとった。
どうやら義勇は、二日目か三日目くらいに鬼に襲われてケガをし、しばらく気を失っていたそうだ。それで、よく鬼に見つからずにいられたものだ。
そして、初日に試練について説明をしてくれた童子二人から、隊服や正式な刀の支給など、鬼殺隊員として働くために必要な説明を受け、解散となった直後。俺は糸を切ったかのように倒れこんでしまったという。それから一月の間、昏睡状態だったというわけだ。
そうか。それはまずい。どれくらいまずいかというと、とんでもなくまずい。多大なる心配をかけたのは間違いない。なんと言って詫びたらいいのだろうか。
「……隊服、似合ってるぞ錆兎」
「誤魔化すな」
空気を少しでも和ませようと、わざとずれたことを言ってみせれば、怒った錆兎がデコピンをしてきた。ある程度加減はしたようだが、それでも痛い。
「っていうか……俺も一応合格したってことでいいのか?」
「それは自分で確かめろよ」
「どうやって」
「ん」
錆兎が顎を前に動かして指した先には、黒い装束がきちんとたたんで置いてあった。布団から出て見てみると、確かに錆兎と同じような作りの隊服だ。それを押さえつけるように、刀が一振り置いてある。
さらに、窓の外側に一羽のカラスがとまっているのに気づいた。隊員一人一人に一羽ずつ、指令などの伝令用に支給されるものだ。
こちらをじっと見つめるカラスと目を合わせる。あれが、俺の鎹鴉なのか。つまり、俺も合格したということ。嬉しい。
「で、義勇は?」
「任務終えてから来るって手紙きたから、もうじき……お、来たか」
錆兎が察したとおり、小屋の扉が開いて外から義勇が顔を出した。
赤い無地の羽織に、錆兎と同じ隊服に身を包んだ義勇。一月しか時間が空いていないのに、どこか大人びた印象がある。
「……義勇?」
義勇は錆兎と違い、こちらと目を合わせて固まったまま、動かなくなった。
どうしてしまったのだろう。任務がつらすぎて、とんでもない疲労感に襲われているとか?
どうしたものかと思案していたら、向こうから動きがあった。ゆっくりと歩いて近寄ってきたと思えば、錆兎と同じように抱きついてきた。義勇の場合は錆兎と違い、力いっぱいというわけではないが、結構な力を込めてきた。
「十羽……十羽」
「お、おう。義勇。今、錆兎から話聞いたよ。ごめんな、ずっと寝たままで」
「心配した」
「……ごめん、義勇。俺はもう大丈夫だから」
「お前の大丈夫は信用できない」
「え……ひどい」
「十羽」
「うん?」
「……よかった……」
心の底から安心した、とでもいうような、弱々しい声を聞いて少し泣きそうになった。
まったく。俺ってば、なんでもっと早く目を覚まさなかったんだ。あんなに鍛えていたのに。そんなにひどいケガを負ったつもりはなかったのに。俺の馬鹿。